生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2008(平成20)年4月24日
 
 

コミュニタリアニズムと地域学習 (こみゅにたりあにずむとちいきがくしゅう)

communitarian theories and their perspectives on community learning
キーワード : コミュニタリアニズム、個人化、シチズンシップ、ボランティア活動
坂口緑(さかぐちみどり)
2.コミュニタリアニズムの思想
 
 
 
 
   アメリカの政治思想や社会学を中心に展開されてきたコミュニタリアニズムという思想は、このような「個人化」の進んだポスト工業社会において、個人がどのような動機をもって社会に関わることができるのか、その際に、個人主義的な道徳律に頼るだけではなく、「個人の利害の総計を超えた共通善」を想定することができるのかどうかという問題を模索する。アイスクリームのトッピングを選択するように人生の選択を迫る現代社会が、個人だけではなく社会にとってどのような問題を引き起こすのか、そしてそのような「選好」の袋小路から人はどのようにして抜け出ることができるのかという疑問に答えようとする。その際、キーワードとなるのが「コミュニティ」である。
 コミュニタリアニズムの用いる「コミュニティ」という語の意味は多岐にわたる。そのため地理上の一定の範囲を示す「地域」に必ずしも限定されない。その人の帰属する集団やアソシエーションも含む意味をなす。たとえば、コミュニタリアニズムの解説書には次のような説明がある。
 「コミュニティは、ひとりの人間を構成するコミュニティについて簡単な質問をなげかけると明らかになる。『あなたは誰か』という質問である。それが、名字、国籍、言語、文化、宗教など、人々が成長するときに関わってきたコミュニティについての説明をすることになるだろう」(参考文献の(1)より)。
 これらは、ばらばらになった個人がどのようにして自分のアイデンティティを確認し、自分にとってなにが本質的な問題なのかを振り返るきっかけとして役に立つ。家族や村落共同体などの集団の規範は、必ずしも個人の選択の指針にはならないものの、個人が歴史的にも将来的にも他者との関係のなかに存在していること、そして個人の好みによって選択された事柄が他者にも影響を及ぼすことを省察させる。いかに「個人化」が進んだように見える社会にあっても、人間が「負荷ある自我」をもつ存在であるとコミュニタリアニズムの論者たちは考える。
 
 
 
  参考文献
(1)Daniel A. Bell, Communitarianism and its Critics, Clendon Press, Oxford, 1993, p97
 
 
 
 
 



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