登録/更新年月日:2006(平成18)年1月27日 |
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オーストラリアにおける地域の成人教育は長年にわたり、イギリスの伝統を受け、大学の構外教育部と労働者教育協会(WEA)が主要な提供者であった。しかし、地域の成人教育センターによる教育機会が1980年代以降、急激に増加し、91年の雇用・教育・訓練に関する上院特別調査会の報告書は成人・コミュニティ教育(ACE)を学校教育、高等教育、職業教育・訓練(VET)と並ぶ第4の教育部門として認知した。 このACEはTAFEカレッジなども提供しているが、大多数がコミュニティ・成人教育センター、夜間カレッジ、地区ハウス(neighborhood house)など地域の非営利団体から構成される地域の成人教育センターによって行われている。その提供内容は識字や算数などの基礎技能を扱う基礎教育、中等後教育への入学準備教育、市民教育、教養教育、職業関連の教育・訓練、さらにはレクリエーション、余暇活動など多岐にわたる。 そのようなACEの受講者は、過去の調査によると、性別では7割以上が女性で、年齢別では40歳以上の者が約半数を占める状況となっている。 ACEの意義は近年いっそう認識されてきているが、2002年には連邦政府の教育大臣および各州の教育行政担当長が集まり、今後のACEに関する声明を発表した。そこでは、地域におけるACEの役割・重要性に関して人々の意識・理解の向上を図る、地域を主体とした革新的な学習戦略を促進する、そのような地域ベースの学習機会への参加者を増やす、学習機会に参加したことによる効果を増大させる、ことを目標として掲げた。 しかし、一方でACEは様々な問題にも直面している。それらは具体的には(1)職業教育・訓練と非職業教育間のバランス、(2)財政上の問題、(3)受益者負担の社会的公正促進への影響である。 職業教育は主としてVET部門の役割であるが、経済的な背景により、職業教育が重要視される傾向から、ACE部門を職業教育・訓練システムの一員に位置づけようとする動きもある。それに対して、ACEにはACE独自の役割があり、ACE自身のアイデンティティを守るべきという主張や、職業教育・訓練重視は高齢退職者や専業主婦(夫)を排除するものであるとの批判もなされている。 また財政面での公的な助成は基本的に州の訓練機構から認定を受けた職業教育・訓練系のプログラムに対してなされており、プログラムの大多数が非職業教育系であるACE活動に対しては、公的な財政上の支援は十分とはいえない。それゆえ、ACE事業者は財政的に苦しく、また受講者に対して受益者負担ということで費用負担を求めざるをえない状況となっている。この財政上の問題は、ACEは社会的弱者のニーズに応えるということをその主要使命の一つとしているにも関わらず、経済的に負担能力のある人々を対象にしたプログラムを実施し、収益をあげるような状況を引き起こしており、また費用負担により、経済的に苦しい人々が参加しにくくなっていることから、教育機会の均等という社会的公正上の目標との間で矛盾をも生じさせている そのため、職業教育・訓練の意味をすぐに職場で役立つ実践的な能力の開発という狭い意味で解釈するのではなく、一般技能も含めて広範に解釈し、ACE活動にもいっそうの公的な財政支援を行うべきとの主張もなされている。 br> |
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参考文献 出相泰裕「多様な資格を取得できる継続教育」石附実・笹森健編『オーストラリア・ニュージーランドの教育』東信堂、2001年、101〜113頁。 |
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