生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2006(平成18)年1月27日
 
 

オーストラリアの生涯学習支援 (おーすとらりあのしょうがいがくしゅうしえん)

promotion of lifelong learning in Australia
キーワード : 知識社会化、社会的公正、オーストラリア資格体系、成人・コミュニティ教育、大学
出相泰裕(であいやすひろ)
1.生涯学習促進に向けての動向
  
 
 
 
   1996年に経済協力開発機構(OECD)が生涯学習の推進に力点を移して以来、オーストラリアにおいても、政策上、生涯学習への関心がいっそう強まってきている。その生涯学習推進の目的としては、第一に経済の地域間競争の激化や知識社会化の進行により、質の高い労働力の必要性が高まっていることから、職業人の職業能力を向上させることがある。第二にオーストラリア連邦政府はアボリジニーなどの先住民、英語を母国語としない移民、中等教育非修了者、地方在住者、障害者、女性を社会的公正推進上のターゲットグループとして位置づけてきたが、若い時期に十分な教育機会を受けられなかった人々が社会的に排除される恐れが近年いっそう強まっていることから、そのような人々の生涯学習を促進し、社会的統合を図ることがあげられる。
 そして政策の方向性としては、(1)成人の特性やニーズに合わせて柔軟に効率的に機会を提供すること、(2)広範な層の参加に向けて参加への阻害要因を軽減すること、(3)教育機会提供者、行政、企業等、地域間の連携を推進すること、(4)成人学習の価値を社会に浸透させること、(5)生涯学習によりいっそう地域を取り込むこと、(6)受益者負担など個人の責任を重視すること、等が掲げられている。
 オーストラリアの中等後教育は大学を中心とした高等教育部門、技術・継続教育機関であるTAFEカレッジを中心とした職業教育・訓練(VET)部門、そして90年代に公的に一教育部門として認知された成人・コミュニティ教育(ACE)部門の三部門から構成されている。一般的にVETは職場で必要とされる職業能力の開発を主眼としており、州の訓練機構から認定を受けた課程を意味する一方、ACEは主として余暇関連、あるいは識字教育など社会的公正に関わる教育機会を提供するものである。しかし、VETとACEの定義は必ずしも明確ではなく、ACE事業者は一部で認定職業教育課程の提供も行っており、またTAFEカレッジにおいても非職業関連の講座も実施されているなど、両者には内容の重複もみられ、明確に区分することは困難である。
 1995年からオーストラリア資格体系(Australian Qualification Framework:AQF)が段階的に導入され、2000年には完全実施となった。AQFは中等教育、VET及び高等教育において提供される国家資格を全国的に統合したシステムである。これにより、(1)義務後教育段階における学修に対して全国的に一貫した認定が可能になる。(2)各部門の資格が他部門のどの資格に相当するのかが把握でき、部門間で資格や単位の相互認定や学習者の部門間移動が容易となる。(3)各人は自分に合った段階から学習を開始できるうえ、自身のレベル上の位置が把握でき、その後の学習上の進路も明確になり、生涯学習の促進につながる、といった利点が想定されている。しかし、確かにVET部門からの大学入学といった部門間移動は一定程度拡大したが、大学側の意識の欠如と評価プロセスの負担等により、単位認定といった面でVET部門での学修は必ずしも十分に評価されてはいない。
 
 
 
  参考文献
出相泰裕「多様な資格を取得できる継続教育」石附実・笹森健編『オーストラリア・ニュージーランドの教育』東信堂、2001年、101〜113頁。
 
 
 
 
  



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