生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2011(平成23)年3月6日
 
 

ヨーロッパにおける政策用語としての「生涯教育」と「生涯学習」 (よーろっぱにおけるせいさくようごとしての「しょうがいきょういく」と「しょうがいがくしゅう」)

キーワード : 生涯教育、生涯学習、ヨーロッパ連合、政策用語、イギリス連合王国
柳田雅明(やなぎだまさあき)
2.ヨーロッパにおける「生涯学習」の主流化
 
 
 
 
   「生涯学習(lifelong learning)」がヨーロッパで政策推進の概念として前面に出たのは、1990年代になってからである。その際大きな役割を果たしていたのが、やはり欧州委員会であった。1994年と1995年の白書では、「生涯学習」を重要概念として取り入れた。そして、EUに加え3カ国が参加した1996年「ヨーロッパ生涯学習年」によって、「生涯学習」が政策用語として急速に主流となったのである。
 その動きは、ユネスコとも連動していた。教育をめぐる課題を明らかにした上で、政策決定者に対し21世紀へ向けた教育改革の提言を行うことを目的とする委員会として、1993年にユネスコが再度結成したのが「21世紀教育国際委員会」であった。同委員会は、2年余りの間、世界各国の教育の現状を調査し、かつ教職員組合、非政府組織等の組織・団体とも意見交換をした上、その成果を1996年に『学習:秘められた宝』(Learning: The Treasure Within)として取りまとめた。その取りまとめ時の委員長が欧州共同体の議長を終えたジャック・ドロール(Jacques Delors)であったので、『ドロール・レポート』がその別称となっている。同委員会では、「生涯を通じた学習」(learning throughout life)という言葉遣いを提起し、その定義を「人の生涯と同じ長期にわたり、社会全体へ拡がりをもった連続体としての教育」とした。
 ただし、learning throughout lifeではなくlifelong learningの方が広まることとなった。現在生涯学習論を世界的に主導する研究者とされるジョン・フィールド(John Field)は、lifelong learningなる言葉と概念の急速な広がりについて、ユネスコでなく、欧州委員会の動きから説明をしている。
 以降、「生涯学習」に関して理念を行動へと移そうとするEUの施策が、他の主要政策とも連動しつつ進んでいる。具体的には2000年の「生涯学習のメモランダム」、2001年の「ヨーロッパ学習エリア」の発表などがそれにあたる。
 周知の通り、日本では、1960年代後半から用いられてきた「生涯教育」が、1980年代から「生涯学習」が行政用語となり、さらには1990(平成2)年に「法律用語」となった。一方、ヨーロッパにおいて、「生涯学習」にあたるlifelong learningなる概念が広まっていくのは、以上のように、日本よりかなり遅れたのである。なお、「生涯教育」から「生涯学習」への移行が時間的に先行した日本からの影響がヨーロッパにおいてどの程度あるのかは、研究上きわめて興味深い課題となろう。
 
 
 
  参考文献
・Jacques Delors, et al. Learning: the Treasure Within. Paris: UNESCO, 1996.
・Field, John. "Lifelong Education." International Journal of Lifelong Education 20, no. 1-2 (2001): 3−15.
・澤野由紀子「世界の動き『ヨーロッパ生涯学習エリア』を構築へ: 拡大EUの取り組みを見る」『内外教育』5338 (2002): 2-4.
 
 
 
 
 



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