生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2018(平成30)年2月21日
 
 

研究課題・新しい社会形成者の育成 (あたらしいしゃかいけいせいしゃのいくせい)

fostering new social builder
キーワード :
西村美東士(にしむらみとし)
2.キャリア教育の視点から見た社会形成者の育成
 
 
 
 
  【個人化社会におけるキャリア教育】
 キャリア教育については、「学校から社会へのトランジション(移行)」の視点が挙げられる。キャリア教育は、卒業後の自分の社会での位置決めができるよう支援する教育だといえる。だが、学校教育が現実の社会と遊離した存在になっていると、若者が学校という「群れ」(Schoolには群れという意味がある)を卒業していざ「一匹」で社会に飛び出したとき、スムーズに移行できないという問題が生ずる。
 これについては、社会に出てからの組織での成功のためには、インターンシップのほか、アルバイト先での異質な他者との出会いなどがよい影響を与えるなどの調査結果が出ている。また、親や教師との「タテの関係」だけでなく、青少年団体活動などにおいてよその大人たちとの「ナナメの関係」を体験した子どもたちは、社会に出てから成功しているという結果も出されている。
 現代は、社会の規制をゆるめて、本人が自己決定できる自由の幅を拡大し、そのかわり結果は本人の責任に帰することを原則とする「個人化社会」である。しかし、そのような自己決定力の育成のためには、社会のさまざまな教育的諸機能が連携し、個人への生涯にわたった持続的なサービスを提供する必要がある。これがなければ、自己決定の自由は、有名無実なものになってしまう。さらには、今日、自己決定能力があっても発揮できない、報われないという事態が見受けられることも忘れてはならない。
【キャリア教育の課題】
 社会形成者の育成を考える場合、まずは、経済社会の形成者としての「望ましい職業人」をどう育てるかということが重要になる。しかし、多くの教育の場では、展望も方法も見えずに無力感に支配されている現実を見ることが多い。たとえば、大学におけるキャリア教育に関する否定的議論が指摘する「問題」については次のように整理できる。
@業種についての理解はできても、各企業における具体的な仕事内容にそのままつながるものではない。
A職業知識の付与は、大学では、各学科の専門性によって限定される。企業は、それを採用基準にはできない。
B企業の側が具体的に要求する資質・能力のイメージがきわめて曖昧なままであれば、学生自身の能力の自己判断も曖昧にならざるを得ない。
C職業に対する「構え」は、学生が職業知識に則して自らの振る舞いを制限したり、発現したりすることによって獲得できる。そのため、個々の学生のとらえ方そのものに規定されてしまう。
Dコミュニケーション能力や論理的な思考は、生得的、あるいは幼児期から形成されてきたものであり、大学教育によってどのように形成されるかを具体的に示すことはできない。
Eコンピテンシー(ここでは、コミュニケーション能力や論理的な思考)というのは抽象的な概念である。個々の具体的なコンテクストにおいて意味を変えるものともみることができる。
 上に示したそれぞれの「問題」について、次のとおり「キャリア教育の課題」が設定できる。
職業の理解=@具体的な仕事内容の理解促進、A必要な職業知識の明確化
自己の理解=B具体的必要能力の明確化、C個人の「職業への構え」の育成
自己と職業の調和=D職業上必要な交信力と論理力の育成、E社会対応型能力活用力の育成
 これらの課題は、社会化と個人化の両側面からのアプローチを行うことなくしては達成できない。キャリア形成において、これまでの集団主義が反省され、「個性の発現」が多くの企業や若者自身から求められている。一方で、現在のニートの問題などから、「ライフコースの個人化」を批判する議論もある。これらのいわば「混迷」の状態において、生涯教育が、雇用流動化時代における職業生涯支援の立場を明確にし、キャリア形成に必要な社会性と個人性をともに育成するためのプロセス分析及び教育目標設定を行うことの意義は大きい。 添付資料:キャリア教育図解
 
 
 
  参考文献
・森和夫、河村泉『能力開発の実践ガイド―15の教育ニーズから逆引きで使う』、日本能率協会コンサルティング、2013年10月
・溝上慎一『どんな高校生が大学、社会で成長するのか−「学校と社会をつなぐ調査」からわかった伸びる高校生のタイプ』、学事出版、2015年7月
 
 
 
 
 



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