登録/更新年月日:2018(平成30)年2月21日 |
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【必要能力の可視化と提示】 これまでは、直接的な職業能力よりも学力に、そして個人性よりも社会性に重点が偏り、「個性の発現」を求める企業や人々の要求に十分に応える結果を出せなかった。コンピテンシーについては、教育界ではDeSeCoの社会参画論が一般化し、普段の経済社会で使われている「高業績者の行動特性」 などの意味が希薄化している。だが、両者とも、「分解された必要能力」が明らかになっていない。そのため、教育側は、DeSeCoの論と日々の教育活動における目標設定を十分にはつなげられないままだし、企業の側は、構造的、段階的な能力開発目標を示せないでいると考えられる。 これに対して、クドバス(CUDBAS=CUrriculum Development Method Based on Ability Structure、森和夫、1990年)は、職場の課題に基づいて臨床的に書き上げられた「分解された必要能力」を帰納法的に仕事別に分類して構造化する。発足当時は生産現場等で活用されていたが、最近になって急激に国際的な広がりや、看護師のクリニカルラダー(看護実践能力を段階的に表した「はしご」)などでの深まりを見せ始めている。クドバスは、5人程度のチームでそのマニュアルを読み上げながら作業を進めれば、誰でも3時間程度で「クドバスチャート」を作成することができる。このチャートをもとに、分解された能力を各科目の到達目標に組み込んで、各回の「本時の目標」に配分し、各科目の各回のテーマ、方法、内容を設定する。これらの科目を段階順に並べることによってカリキュラムをシステム的に作成できる。 【個人化支援と社会形成者の育成】 ワークショップにおいて、自己内対話を保障できるのが「カード書き」の時間である。発言時間分析をしたところ、その時間だけが極端に発言時間が少ないことがわかった。また、合意を急ごうとする学習者に対して、揺さぶりや新規課題提示などの指導行為により、自己内対話を深めさせ、それによって他者との相互関与及びプロダクツの質も高めることが必要である。ワークショップのもつ自己内対話促進機能にもっと注目し、それが協同の質を高める結果につながるということを認識すべきである。 今日、ESD(Education for Sustainable Development:持続可能な開発のための教育)と、そのための共生社会の創出による「多様性」の確保の創出の重要性が叫ばれている。ここでは「共生=共存+共有」であると考えられる。個人化が進展し、「共存の作法」を習得した者は増えている。しかし、それはいわゆる「ヤンキー化」(斎藤環、2012年)による「関西芸人のように達者な話術」によるものであって、感情・価値観の「共有」や準拠枠組みの異なる他者との「共感」には至らない。よって、「公共」や「社会形成」といった概念が入り込みにくいのである。このままでは「ワーク・ライフバランス」は矮小なものになり、「ワーク・ライフ・ソーシャル」(川島高之、2015年)という三本柱にはなり得ない。 教育、メディア、音楽において、「自己肯定感」(self-esteem)を重視する傾向が強まっている。しかし、異なる他者と共存はできても共有はできないという現代人が、「ナンバーワンよりオンリーワン」と言って満足してしまった場合、その個人完結型の閉鎖状況はますます悪化してしまう恐れがある。個人化の進展による「自己への関心」を契機として、自己受容、自己成長、他者受容を経て、「社会に開かれた自己」への関心にシフトアップするよう支援することが重要である。それは、本人の社会化の進展レベルでいえば、「共存レベル」から「共有レベル」にシフトアップすることにほかならない。 br> 添付資料:クドバスと自己内対話時間図解 |
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参考文献 西村美東士「クドバスを活用した子育て学習の内容編成−高校生の子をもつ親のために」、聖徳大学生涯学習研究所紀要『生涯学習研究』3号、2005年3月 斎藤環『ヤンキー化する日本』、角川新書、2014年3月 川島高之『いつまでも会社があると思うなよ』、PHP研究所、2015年9月 注)青少年の社会参画については、「若手社員育成の課題と方法」の項でふれる。 |
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