登録/更新年月日:2009(平成21)年4月27日 |
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学びが「学校」を超えて実践されていることを強調し、学習社会という言葉の登場以前に生活と学びを結びつけて論じた知識人に、ジョン・デューイ(1859-1952)がいる。デューイは「人々が絆によって結ばれる生活様式」としてのデモクラシーを論じたことでよく知られている。デモクラシーは政治的手法ではなく、共同生活において他者の考えに耳を傾け互いに歩み寄っていくという決め方を実践する生活様式であって、「絆」のある生活の仕方をともに学ぶことだとデューイは考えた。デューイ自身はこのような学びが学校をとおしていかにして実現されるのかということに力を注ぎ、シカゴ大学付属小学校において、伝統的な教育に対する「進歩主義的教育」をこころみた。しかし学校における「教育」ではなく「学習」という観点からみると、子どもだけではなく学習にかかわる者すべてが、ともに耳を傾け合い決定するというデモクラシーの考えは、生涯学習のもうひとつの次元を指し示すヒントになっている。また、1945年のデンマークでも隣国ドイツのナチズムに対抗する思潮を作りだしたハル・コックという教会史研究者によって『デモクラシーとは何か』という小冊子が著されている。コックもまた、デモクラシーとは「人々が徐々に自分のものにする生活形式であり、生活テンポである」と述べている。そして、19世紀末のデンマーク人が、職業組織、農協、協同組合などのグループ活動をとおして「協議しあうことを学び、他者の立場を理解してそれを我慢して受け入れ、自分流の狭い見方によらず、ある程度は全体利益の観点から見る協力の技能を学んだ」と述べている。 両者のデモクラシー観に共通して見られるのは、学習の共同的な側面を重視する態度である。個人が知識社会に生きる労働者や市民として能力を向上させること、あるいは個人が余暇に人格を磨き豊かな人生を送る生き甲斐を見つけることはまた異なり、他者とのコミュニケーションを通して共に歩み寄り支え合う人間同士の関係が強調されている。実際に、生涯学習は今までも学習をとおして人々をつなぎ、協力し合う関係作りを果たしてきた。また、社会的信頼のネットワークの基盤となるソーシャル・キャピタルという観点からも、生涯学習の実践には関心が集まっている。ただしソーシャル・キャピタルという視点は、ロバート・パトナムの研究で明らかなように、ある社会における社会的信頼の形成について後付的に観察することは可能でも、理念型として実践知に加工するのは難しい。学習そのものがもつ社会的機能をどのように一般化できるのか。生涯学習論が引き受けなければならないのは、このような問いである。 br> |
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参考文献 ・ハル・コック『生活形式の民主主義』(小池直人訳 花伝社 2004年) ・ロバート・パトナム『哲学する民主主義』(河田潤一訳 NTT出版 2001年) |
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