登録/更新年月日:2006(平成18)年10月28日 |
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【説明】 コミュニケーションにおける人間関係の原点は1:1の関係である。ケータイやパソコンにみられる対話やメールでも、コミュニケーション形態の多くは1:1で行われ、これをマイクロ生態系と呼ぶ。なお、文化生態学では更にこれを取り巻くミニ生態系・メゾ生態系そしてマクロ生態系も認められている。 新聞の報道を中心にケータイやパソコンに関して調査を深めると、情報社会自体の脆弱性つまり「規範の乱れ」がみえてくる。更に情報弱者は二つに大別できる。(1)自分だけが使えるケータイやパソコンを持たないことによる情報リテラシー不足のグループである。(2)他の一つはリテラシーが比較的高く、しかもメディアに対する依存度も高いが故、かえってメディア犯罪の被害者または被害を受けやすいグループである。 【課題】 「メール交信の実態」を調べて、情報弱者の立場からこれを考察する。特にケータイやパソコンの交信環境に適応するための過程を「生涯学習」と弱者の視点でまとめる。 【事例】 情報弱者の形態やカテゴリーを考察し、「情報弱者への救援策」を検討した。 小学生のメール交信に伴って平成16(2004)年6月1日、長崎県佐世保市の校内で殺人事件が起こり、教育界に大きな衝撃を与えた。この「チャットをめぐる殺人事件」では加害者は小学生6年生女児(同じクラスの生徒)で、カッターナイフが凶器である。加害者は被害者を別の空き教室に呼び出して、カッターで頸部を切って殺害に及んだ。 平成16(2004)年11月17日に起こった奈良の事件は小学生(小学校1年女子)が誘拐され殺害されたことである。被害者のGPS付きケータイから「娘はもらった」と母親のケータイにメールが届いた。しかもそれには被害者の写真画像を添付していた。 インターネットオークションでカーナビなどの販売を装い、派遣会社社員が代金先払いで納期が遅れることを理由に引き伸ばした。結果的には連絡の取れない状態が続き被害総額1億5000万円に膨らんだ。 ケータイに関して石川県石川郡野々市町の実践がある。小中学生は「ケータイを自ら持たない」運動を町あげて取り組んでいる。そして犯罪などが非常に少ない。単にケータイだけの問題でなく、大人自身が学び、こども達をみんなで守ろうとしているから犯罪が起きにくい。 最も大切なことはフィルタリング等の活用にとどまらず、「良い人間関係(ベスト・ヒューマン・ネットワーク)」をつくること。そして、「モラルを守ること」「思いやりの心」を時代に応じて構築し直すことである。このようなネットワークを育て築くのも、情報モラルを守るのもわれわれ自身である。 結局、住みやすい環境はつくるために、われわれ大人自身のたゆまぬ努力によって築き上げるわけである。「情報弱者」とは自分を含む我々のことであり、情報の授受において大人みずからモラルを守らなければ、不測の事態で弱者になることがある。 今後の情報弱者への救援策として「安全網(技術的安全網・教育的安全網・法律的安全網)」が課題と考えられる。情報弱者の孤立を防ぐには、情報モラル教育をベースとして、情報適応能力を含めた「倫理的人間関係」の構築が大切であり、情報リテラシーの向上を含めて、生涯学習の課題の一つであろう。最後に、大人子どもを問わず情報弱者に共通する最大の特徴は「情報面においてモラルを重視しない社会的孤立」にあるといえる。 br> |
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参考文献 ・鈴木敏正『生涯学習の教育学』北樹出版、2004. ・ウルリヒ・ベック(東廉訳)『危険社会−新しい近代への道−』法政大学出版局、2005. ・トーマス・リコーナ(三浦正訳)『こころの教育論』慶應義塾大学出版会、1997. ・吉井博明『情報のエコロジー−情報社会のダイナミズム−』北樹出版、2002. ・赤堀侃司・野間俊彦・守末恵『情報モラルを鍛える』ぎょうせい、2006. |
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