登録/更新年月日:2006(平成18)年1月27日 |
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【意義】 自己志向のポートフォリオの開発過程はコルブが定立した経験学習サイクルに重なる。同サイクルでは、具体的な経験を省察することによって意味づけ、次なる学習活動へと結びつけていく過程が示される。振り返りによる経験への意味づけを行う自己志向のポートフォリオはまさにこのサイクルを具現化したもの、すなわち経験学習実践だといってよい。この場合自己志向のポートフォリオは1サイクル完結型ではなく、新たな学習活動を志向するサイクル更新・継続型実践である。また別の角度からみると、自己評価力の向上とも深く関わっていることがわかる。自己の潜在的な能力や発展可能性のある方向性を発見するために、自らの内的基準に拠って学習歴を検討していく過程はまさに自己評価力育成の過程であり、ひいては自己主導的学習能力の向上につながる。こうしたポートフォリオ開発の結果として、自己肯定や自己受容、自尊心、自己変革の基盤を得ることができる。 他者志向のポートフォリオについては、第一に社会的評価の多元化に対応しうる点を評価したい。多様な経験学習成果を記載したポートフォリオが社会各所において適正に評価されるようになれば、学校歴偏重の評価システムから学習歴が尊重される評価システムへの転換が期待できる。この点の実現は、これまで励み的な意味付与が中心であった学校以外の場における学習成果が、いかに社会で認知され流通可能性を持ってくるかによるであろう。どこで学んだかではなく何を学んだかが正当に評価される、まさに生涯学習社会の実現につながる。第二に学習成果のみならず学習計画等の学習過程を記述できる点から、プロセス評価の方法としての期待もかかっている。結果として出てきた点数や証書等のみならず、そこに至るまでのプロセスを質的に評価できる可能性を内包する。 【問題点】 課題を3点程指摘しておきたい。第一に、ポートフォリオによる自己評価がすべての人に有効ではないという点である。ポートフォリオは基本的には自己を肯定的に意味づけるために利用される。そこで、ネガティブな面ばかりに目が向く人や振り返ることで浮上してくる問題を直視するのを恐れる人、過度の内観主義者等にはその適用で効果を上げることは難しいと言われる。他者評価のための自己アピールという側面も備えている点を考慮すると、謙譲を美徳する日本文化には馴染みにくい面もあるやもしれない。 第二に自己評価力(評価観)の育成が急務であろう。従来学校教育においては教師が評価の主体であり、社会教育においては評価は計画・実施ほど重視されないという傾向が認められ、いずれの場においても十全に自己評価力の育成に力が注がれてきたとは言い難い。自己評価した学習歴がさらに社会的評価の対象と成りうるという特質を持ち合わせていることに考慮すると一層適正な自己評価力を磨く必要性が認識されよう。 第三に自己評価が社会的評価に変換していく点に課題をみることができる。個人の学習歴を社会的に評価し流通可能性を持たせていくための評価基準や機構、成果の互換システムの構築が他者志向のポートフォリオを浸透させていくためには必須である。ポートフォリオの作成には多大な労力と時間がかかる。これによる意欲の減退を防ぎ、自己志向のポートフォリオの精度を高めるためにも、社会的評価の可能性を広げていくことは重要であろう。 br> |
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参考文献 ・ 山川肖美「生涯学習におけるポートフォリオ概念の再検討」『日本生涯教育学会年報』(第17号)、1996年、pp.77-89。 ・ Kolb,D.A., Experiential Learning :Experience as the Source of Learning and Development., Prentice-Hall Inc., 1984. |
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