登録/更新年月日:2009(平成21)年6月21日 |
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若年時に正規の学習機会が十分に得られなかった成人たちが、イギリスにおいても存在する。このような成人に向けた補償学習機会としては、高等教育入学準備課程(Access to HE programme)の取り組みが知られている。とはいえ、さらにその前の段階にあたる学習機会を必要としている人たちも存在する。そして、そのような学習機会を提供する取り組みもまた存在する。 たとえば、筆者が2000年に訪問したロンドンのルイシャム・カレッジ(Lewisham College)では、ノートの取り方などの学習スキル(study skills)を身に付ける段階からの取り組みがなされてきた。 また、スコットランドのスターリング大学(University of Stirling)では、2006年筆者訪問時に、CAML (Community Access to Mainstream Learning, 主流学習へのコミュニティ入口)やVaLEx (Valuing Learning from Experience, 経験からの学習評価)といった試行プロジェクトが実施されていた。CAMLは、IT講習や基礎学力向上講座等を、無料かつ託児完備・交通費支給で、学内そして近隣地域で実施するものである。VaLExは、既習得の知識・技能を、グループ学習を通じてポートフォリオ方式で確認することで、自信が付き学ぶ意欲が向上することを目的とした取り組みである。これらの学習機会は、成人向け高等教育進学準備課程への入学を促すきっかけ作りとなるよう設定されている。ただし、これらの機会そのものは、その修了後直ちに学部の正規学生として入学することは想定されていない。なぜなら、CAMLとVaLExは、到達度を認証するという役割は基本的にないからである。なお、スターリング大学でのこれらの取り組みは、ともに財源は、時限付きの公的資金であった。 一方で、義務教育修了水準(イギリスでは標準年限16歳)での学力到達度が求められている状況についても触れる必要があろう。その背景には、NQF(National Qualifications Framework, 全国共通資格枠組み、ただし本文執筆時にはQCF(Qualifications and Credit Framework, 資格・単位枠組み)へと移行中)における水準2(level 2)以下の職業資格を取得しても、収入として見返りが少ないことがある。ここでいう水準2とは16歳時点での標準的な水準である。そのような状況は、政策推進側からも実証的に提示され、その内容が教育専門紙として最も有力とされる『タイムズ教育版(Times Educational Supplement)』2007年7月13日号でもかなり大きく報道されている。イギリスで標準16歳までの義務教育年限修了の学業到達度認定資格に当たるのが、GCSE(General Certificates of Secondary Education, 中等教育一般証書)である。GCSEの到達度は、NQFにおける水準2もしくは水準1と一致している。すなわち、日本でいえば高校1年終了時の若年者と同じ学力認定である。 たしかにGCSEには、受験年齢に制限が設けられていない。ところが、GCSEに対応する課程は、16歳以降のあらゆる学習に対応するとされる継続教育カレッジ(further education college)でさえも、十分に対応できているとは言い難い状況ではある。 br> |
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参考文献 ・柳田雅明「イギリスにおける成人のための高等教育入学準備課程」『日本生涯教育学会年報』22、2001年. ・柳田雅明「イギリスにおける成人向け大学等進学準備課程の再検討:自立支援政策との関連を焦点に」『日本生涯教育学会論集』28、2007年. ・柳田雅明「イギリスにおける成人に対する補償学習機会の検討:シティ・リット Return to Study を事例に」『日本生涯教育学会論集』29、2008年. |
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