生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2008(平成20)年11月10日
 
 

ユネスコの生涯教育論 (ゆねすこのしょうがいきょういくろん)

UNESCO's theory of lifelong education
キーワード : 生涯教育、国際機関、UNESCO
澤野由紀子(さわのゆきこ)
3.『ドロール・レポート』における生涯学習論
  
 
 
 
   フォールを長とする教育開発国際委員会が発足してから22年後の1993年、ユネスコは教育をめぐる課題を明らかにし、政策決定者に対し21世紀へ向けた教育改革の提言を行うことを目的とする委員会を再度結成した。この委員会は「21世紀教育国際委員会」と名付けられ、フランスの元経済・財政大臣であり、欧州共同体の議長を務めていたジャック・ドロール(Jacques Delors)が委員長となり、世界の賢人14人がメンバーとなった。日本からは元文部省事務次官で、退任後も文部省顧問やOECD教育委員会、UNESCO国際教育開発研究所等の理事を歴任した天城勲が委員となった。同委員会は、2年余りの間、世界各国の教育の現状を調査し、教育組合、NGO等の組織と討議を行い、その成果を1996年に『学習:秘められた宝』(Learning: The Treasure Within)にまとめた。この報告書も委員長の名を冠して『ドロール・レポート』と呼ばれる。
 21世紀教育国際委員会は、『フォール・レポート』の生涯教育と学習社会の概念をはじめとする考え方を全面的に踏襲しながら、世界の各地でますます深刻となっている失業、格差の増大、暴力、人種差別、環境破壊、戦争などの問題に対する憂慮の念を全面に出し、今後の世界において人々が共存していく上で学習が果たす役割に期待を寄せている。同報告書のタイトル『学習:秘められた宝』は、農夫が息子たちに先祖の残してくれた土地には宝が隠してあるから決して手放してはいけないという遺言を残して亡くなったため、子どもたちは土地を掘るが、宝は結局みつからず、替わりによく耕された土地から大きな収穫が得られ、労働の大切さがわかった、というフランスのラ・フォンテーヌの寓話にもとづいている。報告書では、この労働を学習に喩え、これからの教育政策の取り組みにおいては、誰もがその内に持っている未知の可能性という宝物を発見するために、生涯学習の推進を強化すべきであると主張する。
 そして、教育が寄って立つべき4本柱として、「知ることを学ぶ」(Learning to know;知識の獲得の手段そのものを習得すること)、「為すことを学ぶ」(Learning to do;専門化した職業教育ではなく、様々な実用的能力を身につけること)、「(他者と)共に生きることを学ぶ」(Learning to live together, Learning to live with others;他者を発見、理解し、共通目標のための共同作業に取り組むこと)そして「人間として生きることを学ぶ」(Learning to be;個人の全き完成を目指すこと)を掲げた。4本目の柱の「人間として生きることを学ぶ」は、『フォール・レポート』のテーマである”Learning to be”に対する天城勲らの訳語である。
 同委員会は、あらゆる物事が人の潜在的能力を豊かにするための学習の機会を提供する「学習社会」と結びつけて、「生涯学習」を、学校、学校外、職場および社会的生活のなかで、生涯にわたり新しい知識を身につけることとして定義している。そして、幼少期から老齢期まで「人の生涯と同じ長期にわたり、社会全体へ拡がりをもった連続体としての教育を、本委員会は「生涯学習」と呼ぶ」とし、生涯学習を「21世紀の鍵」として位置づけている。
 
 
 
  参考文献
・天城勲監訳 『学習:秘められた宝』(ユネスコ「21世紀教育国際委員会」報告書、ぎょうせい、1997年
 
 
 
 
  



『生涯学習研究e事典』の使用にあたっては、必ず使用許諾条件をご参照ください。
<トップページへ戻る
 
       
Copyright(c)2005,日本生涯教育学会.Allrights reserved.