生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2011(平成23)年1月1日
 
 

日本生涯教育学会における生涯学習研究30年 (にほんしようがいきょういくがっかいにおけるしょうがいがくしゅうけんきゅうさんじゅうねん)

キーワード : 生涯学習、研究主題、研究手法
久井英輔(ひさいえいすけ)
1.『日本生涯教育学会年報』の特集テーマにみる研究動向
  
 
 
 
  【1980年代中葉までの特集テーマにみる研究動向】
 以下では、『日本生涯教育学会年報』(以下『年報』)が時期背景に即して取り上げてきた特集を振り返ることで,本学会における生涯学習研究の性格の推移を概観する。(図表1参照)。
 学会創設期である1980年代前半には,『日本生涯教育学会年報』(以下、『年報』)特集テーマを見ると、学問体系構築への志向が強く,「生涯教育」における「統合」「体系化」の理念・理論と正面から取り組もうとする傾向が強い。また生涯教育の「体系化」において主要な対象領域への言及・把握を固めて,学問体系を構築しようとする傾向もうかがえる。理論的彫琢への希求の強さはこの時期の本学会の「生涯教育」研究を特徴づけている。
【1980年代末から1990年代までの特集テーマにみる研究動向】
 1980年代末から90年代にかけては,臨時教育審議会(1984(昭和59)〜87(昭和62))年)における「生涯学習体系への移行」の方向性の提示や,文部省における生涯学習局(現・生涯学習政策局)の発足(1988(昭和63)年),生涯学習振興法の制定(1990(平成2)年)といった動向の中で,本学会年報でも,「生涯学習」の観点からの研究視角が定着する。この時期の特集テーマには,より限定的で時機に即した個々の領域に注目する傾向が見られる。例えば,「生涯学習社会とボランティア」(1993(平成5)年),「大学改革と生涯学習」(1995(平成7)年),「学社融合の生涯学習」(1996(平成8)年)等が挙げられる。これらはそれぞれ,生涯学習審議会答申(1992(平成4)年)におけるボランティア活動の支援・推進への言及,大学設置基準の大綱化に関する文部省令(1991(平成3)年)に基づいた大学の自己点検・評価の要請や生涯学習への対応,国立青年の家・少年自然の家の在り方に関する調査研究協力者会議報告(1995(平成7)年)における「学社融合」への言及,といった,生涯学習実践・事業の枠組みを新たに広げていく政策的・制度的動向を背景としたものであった。「統合」「体系化」について正面から扱おうとする特集よりも,生涯学習に関わる個別具体的な領域・論点への言及が,この時期の特集テーマにおいては主流となっていく傾向がうかがえる。
【2000年代の特集テーマにみる研究動向】
 その後,2000年代にはこれまでにない国・自治体財政の逼迫とともに,他領域行政との「縮小するパイ」の争奪もより顕在化し,「生涯学習推進の必要をいかに主張するか」という切実な問題意識が,特集テーマにも色濃く反映されるようになる。そのような問題意識が最も典型的に現れているのが,「生涯学習と教育改革の時代」(2001(平成13)年)や,「生涯学習と公共性」(2003(平成15)年)であろう。また,学力問題の特集テーマ化や(2002(平成14)年),安倍晋三内閣時における一連の再チャレンジ支援策を背景とした「いつでもチャレンジ可能な社会の生涯学習」(2007(平成19)年)も,単に新たな政策動向を背景とした特集テーマというだけでなく,その当時において緊要な課題として一般世論においても強く認識された論点に関し,「生涯学習という視点がいかに役立つか」という問題意識が前面にでたものであった。その意味では今日を含む2000年代の状況は,生涯学習研究のアイデンティティが広範な観点から改めて問い直される時期になっているといえる。 添付資料:図表1 『年報』における特集テーマ
 
 
 
  参考文献
 
 
 
 
  



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