生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2006(平成18)年1月27日
 
 

昭和期のメディアと社会教育 (しょうわきのめでぃあとしゃかいきょういく)

media and adult education in the Showa era
キーワード : 放送メディア、視聴覚メディア、活字メディア、集団学習、個人学習
久井英輔(ひさいえいすけ)
3.70年代、80年代のメディアと社会教育
  
 
 
 
  【放送メディアの動向】
 70年代、80年代にかけては「生涯教育」「生涯学習」への社会の関心が高まり、政府の各種答申にも生涯教育・生涯学習の概念が盛り込まれるという背景から、放送メディアによって提供される学習機会も、その重心を学校教育から社会教育・生涯学習へとシフトさせてきた。例えばNHK教育テレビではこの時期、生涯学習を意識した番組の比重が従来よりも高まっている。またその内容も職業能力養成から日常生活における趣味・実用へと重心を移すようになる。このような放送による社会教育機会の拡大が進む一方で、集団学習形態の実践への注目が中心となってきた戦後の社会教育研究においては、放送などマスメディアはその商業主義がもたらす悪影響の観点から否定的に捉えられる傾向が従来強かった。
 しかし、70年代以降放送利用による個人学習の拡大がさらに進むにつれ、放送メディアや個人学習の多様な展開を前提とした上で、それらの学習をいかに効果的に展開していくか、また、対人的・集団的な学習活動といかに結びつけていくかという課題が、社会教育研究において検討されるようになった。70年代から80年代にかけては、普段のテレビ視聴による個人学習と、定期的に行われる講義の聴講・質問の時間とを組み合わせた「アカデミー方式」が各地で展開されたが、この学習形態は、個人学習と集団学習の新たな結合を求める当時の課題意識に答える一つの試みとして位置づけられよう。
【ニューメディアの出現】
 70年代以降いわゆる「ニュー・メディア」(ビデオテープレコーダ、ワードプロセッサ、コンピュータなどの情報機器や、放送や電話・通信回線を利用した様々な新しいメディア形態)の普及とともに、これらの社会教育への活用も試みられるようになる。例えば、80年代までに大衆的に普及したビデオテープレコーダは、放送メディア、視聴覚メディアの活用に飛躍的な変化をもたらした。ただし、ワードプロセッサやコンピュータについては、80年代までの段階ではその普及度や利用の簡便さ、異機種間の互換性等において多くの問題を残していた。従ってこれらの機器が、情報収集・整理・発信の側面において成人の学習形態に広汎で飛躍的な変化をもたらすのは、90年代以降のことになる。
【活字メディアの動向】
活字メディアの社会教育、生涯学習に占める位置について見ると、図書館・書店数の増加や、全ての社会階層における書籍・雑誌購買力の上昇などにみられるように、人々の書物に対するアクセシビリティは大きく向上した。また読書行動の地域(都市−農村)格差も縮小した。これとともに、書物へのアクセスの階層格差を問題視する認識は、教育研究の中では希薄化していった。しかし、職業や学歴による読書行動の格差は高度成長期以降も大きく変わることなく存在している。
 高度成長期以降、読書行動をめぐる問題として、テレビの普及にともなう「活字離れ」・「書物離れ」が取り上げられることが多くなったが、読書という自発的学習活動の基盤となる行動において、社会階層がなお少なからぬ影響力を有していたことも指摘されるべきである。
 
 
 
  参考文献
・藤岡英雄『学びのメディアとしての放送 −放送利用個人学習の研究−』学文社, 2005年
・久井英輔「戦後における読書行動と社会階層をめぐる試論的考察」(『生涯学習・社会教育学研究』第29号, 2004年)
 
 
 
 
  



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