生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2016(平成28)年1月1日
 
 

住民の参加を促す行政の役割 (じゅうみんのさんかをうながすぎょうせいのやくわり)

role of administration promoting resident’s participation
キーワード : 持続性、中間組織、協働
大畑明美(おおはたあけみ)
1.住民の教育参加
  
 
 
 
   少子化の進展や産業構造の変化等により地域コミュニティの弱体化が指摘されるなか、子ども達が多様な価値観に触れながら自己を形成していく過程で、地域住民の教育参加は不可欠である。また、地域住民の主体形成の観点から見ても、教育参加の経験は新たな地域課題を発掘し協働しようとする学びの機会をさらに充実させるなど、地域づくりの基盤である。
 文科省では長期にわたり地域の教育力向上を企図した施策を展開してきた。各地教委やコーディネーターのきめ細かな対応により教育活動に参加する住民が増加するなど、事業単体で見ればそうした成功例は数多くあるが、事業単位という枠を超えて住民の主体的な活動が持続し発展している事例が多く共有されているとは言いがたい状況にある。
 住民の教育参加については、参加機会が質量ともに増していると評価する研究がある一方で、大きく2つの批判がある。一つは、改正教育基本法第13条自体を批判し文科省による一連の住民参加を促進する施策を動員と批判する立場である。二つ目は、立ち上げ時限定支援の事業の連続では住民の参加機会(=事業等)に持続性が担保されないとして批判する立場である。
 国や都道府県費事業等における住民の参加を動員と断じるためには、参加時点よりもむしろ活動の継続を判断する時点に着目した研究が必要であろうし、また、主体性を持ち得なかった場合その要因は施策自体にあるのか、あるいは地教委における運用の問題なのかを明らかにすべきである。少なくとも、住民の活動が事業を超えて継続し、かつ、その内容が地域課題を踏まえ子どものニーズに応えたものである場合、動員との批判はあたらない。
 また、持続性については、事業の経費や人的措置の問題として捉えればその指摘は免れないが、「事業の持続性」と「住民の主体的な活動の持続性」は別に論じられなければならない。地域と行政の協働の事例研究にあっては、事業を前提に議論する傾向にあり、同時に、各自治体における事業又は施策の検証に関しても、定量評価に偏りがちな事業評価が重視され、本来、計画の進捗状況を踏まえつつ事業を超えた施策の検証及び課題の設定を行うべき施策評価が十分機能しているとは言いがたい。
 社会教育の役割を「地域住民同士の相互学習と住民の共同による地域づくりの実践が活発に行われる環境醸成である」1)とするならば、地域住民の教育参加に関しては、事業単位ではなく、長期にわたる一連の取組を観察し、持続性を担保した「しかけ」や行政の働きかけを確認しながら、住民の主体的な活動が地域に根付くための教育行政のあり方を考察する必要がある。それは、住民の主体的な活動が自然発生的にシステムとして成立することは難しく、「『新たな公共』のような市民的公共性に基づいたサービスを社会全体が求めるならば、その実現のためには市民に対する行政による公的担保が保障されねばならない」2)からである。
 次項では、上述の視点を踏まえ、東京都渋谷区における住民主体による居場所づくり活動を紹介する。
 
 
 
  参考文献
1)中教審生涯学習分科会「第6期中央教育審議会生涯学習分科会における議論の整理」平成25年1月)
2)今西幸蔵「社会教育行政の新たな課題-学力と評価の視点から」(『天理大学生涯教育研究第11号』平成19年)pp9-24
 
 
 
 
  



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