生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2016(平成28)年1月1日
 
 

住民の参加を促す行政の役割 (じゅうみんのさんかをうながすぎょうせいのやくわり)

role of administration promoting resident’s participation
キーワード : 持続性、中間組織、協働
大畑明美(おおはたあけみ)
2.住民の教育参加を促す行政施策事例
  
 
 
 
   文部科学省では、平成16(2004)年度から18(2006)年度までの間「子どもの居場所新プラン(平成17(2005)年度〜「地域教育力再生プラン」)」の中核事業である「地域子ども教室推進事業」を全額国費の委託事業として実施し、全国各地で住民参加による居場所づくりが開始された。しかし、委託後の補助事業化を機に、予算措置の困難さ等を理由に活動が形骸化又は廃止した自治体も多く、同時に「放課後子どもプラン」の開始により、「放課後子ども教室推進事業」として厚労省事業「放課後児童クラブ」との連携が求められるようになってからは、とりわけ小学校において在籍児童のみを対象に活動を行う例が増加していった。
 そのような中、渋谷区内では、区教委による小学生対象の「放課後子供教室」のほか、住民主体の居場所をはじめとする子ども・若者支援事業が続いている。
 区内の居場所活動は、平成10(1998)年に上原社会教育館主催事業に関わった地域の有志が子どもの居場所を開設したことに始まり、その後区内各所に様々な活動を行う居場所が誕生し、それらが「渋谷ファンイン」としてネットワーク化された。
 渋谷ファンインの持続性を担保したものは、一つは、区をはじめ行政による事業委託や施設・設備の無償貸与、活動の調査研究委託等の支援であり、もう一つは、事実上のコーディネート機能を果たした中間組織の存在である。同組織は、文科省が平成14(2002)年度から実施した「学校内外を通じた奉仕活動・体験活動推進事業」受託のための活動組織「渋谷区体験活動支援センター」であり、住民と区教委が協働で運営し、1)活動プログラムや場所・人材の収集、2)資源のデータベース化、3)相談・紹介等コーディネート等を行った。センターによって把握・蓄積された人材や企業等が継続的又は断続的に各居場所のスタッフとして関わるなど、センターは区内の教育資源を発掘しつなげる中間組織の役割を果たした。なお、同組織は16(2004)年度に行政職員を引き上げ、その後は渋谷ファンインが、現在はNPO法人サポートネットしぶやが中間組織機能を引き継いでいる。これらの主力メンバーは複数重なっており、住民が行政との協働から出発し、住民組織運営を経てNPO法人化したという組織の発展過程にも注目すべきである。
 一方、人材の活動の場となったファンインやNPO法人は、小中生対象事業に始まり現在は20代の若者まで広くサポートする場となっており、また、不登校対策事業においては、専門性を提供する行政側と大学生等ピア(仲間)としてのサポートを提供する住民側との新たな協働の手法を見いだした。
 このように、渋谷区内では、住民主体の組織が、区、都や文科省及び厚労省事業までを広く活用しつつ、地域ニーズに応える形で活動内容を拡大、専門化しながら、事業を超えて居場所を提供し続けている。
 子どもの成長のための環境づくりは、行政の主導により住民の参加を求めるのではなく、地域に潜在するあらゆる人材や教育資源を顕在化させ、それをつなぐことのできる中間組織を育成し、当該組織が活動を持続・発展できるよう行政が住民主体のネットワークへの支援を行うことにより実現されるものである。この支援が、地域の課題を共有した上で行われたときに、行政による行政のための協働とは異なる、地域住民の主体性を引き出し、住民と行政が相互補完的にそれぞれの役割を十分に果たすという、新しい協働の形が見えてくる。
 
 
 
  参考文献
 
 
 
 
  



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