生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2006(平成18)年1月27日
 
 

生涯教育と生涯学習 (しょうがいきょういくとしょうがいがくしゅう)

lifelong education and lifelong leaning
キーワード : 臨時教育審議会、ユネスコ総会、生涯学習体系、生涯学習社会の教育・学習システム、成人教育の発展に関する勧告
山本恒夫(やまもとつねお)
2.生涯学習と生涯教育の違い
 
 
 
 
  【説明】
 生涯学習や生涯教育の概念をみてもわかるように、本来、違いははっきりしている。しかし、一部で生涯教育を生涯学習に置き換えたりしたために、生涯学習と生涯教育の違いを問題にせざるをえないことがある。
 生涯にわたる学習ともなると、学習は教育の中で行われるだけではない。実体としての学習は、「教育の中での学習」(学校教育や社会教育の中で行われる学習など)、「教育関連領域の中での学習」(スポーツ活動や文化活動の中で行われる学習など)、「教育外での学習」(あるテーマで情報を収集して行う個人学習など)の三層からなっている。したがって、学習は教育の外でも行われており、教育を学習と言い換えることはできない。
 生涯教育と生涯学習を相互に置き換えてもよいとした例として、ナイロビの第19回ユネスコ総会で採択された『成人教育の発展に関する勧告』(1976年)がある。この勧告は「生涯教育及び生涯学習(lifelong education and learning)」について次のように述べ、どちらを使ってもよいとしている。
 「『生涯教育及び生涯学習』とは、現行の教育制度を再編成すること及び教育制度の範囲外の教育におけるすべての可能性を発展させることの双方を目的とする総合的な体系をいう。」
 しかし、内外の研究者からは、やはり両者を区別した方がよいとする批判が強い。
 また、臨時教育審議会(昭和59〜62(1984〜1987)年)は、「学習者の視点から課題を検討する立場を明確にするため、『生涯教育』という用語ではなく、『生涯学習』という用語を用いた」(臨時教育審議会『審議経過の概要その3』第2章、昭和61(1986)年)として、生涯教育という言葉を使わなかったために、生涯教育を生涯学習の中に含めた用語法となっている。たとえば、生涯学習体系への移行という場合の生涯学習には、生涯教育のことが含まれてしまっている。
 これらに対し、昭和56(1981)年の中央教育審議会答申『生涯教育について』の第1章の1では、生涯教育と生涯学習を分けて次のように述べている。
 「今日、変化の激しい社会にあって、人々は、自己の充実・啓発や生活の向上のため、適切かつ豊かな学習の機会を求めている。これらの学習は、各人が自発的意思に基づいて行うことを基本とするものであり、必要に応じ、自己に適した手段・方法は、これを自ら選んで、生涯を通じて行うものである。その意味では、これを生涯学習と呼ぶのがふさわしい。」
 「この生涯学習のために、自ら学ぶ意欲と能力を養い、社会の様々な教育機能を相互の関連性を考慮しつつ総合的に整備・充実しようとするのが生涯教育の考え方である。言い換えれば、生涯教育とは、国民の一人一人が充実した人生を送ることを目指して生涯にわたって行う学習を助けるために、教育制度全体がその上に打ち立てられるべき基本的な理念である。」
 臨時教育審議会が生涯教育を排し生涯学習のみを用いて以来、行政関係ではさまざまな混乱が生じたが、生涯教育を生涯学習の推進、振興、援助、支援などに置き換えることで次第に収まり、生涯教育はあまり使われなくなってきている。
 
 
 
  参考文献
・山本恒夫『21世紀生涯学習への招待』協同出版、平成13(2001)年
・井内慶次郎監修、山本恒夫・浅井経子編著『生涯学習[答申]ハンドブック−目標、計画づくり、実践への活用』文憲堂、平成16(2004)年
 
 
 
 
 



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