生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2006(平成18)年1月27日
 
 

「生涯学習パスポート」と学習成果の認証 (しょうがいがくしゅうぱすぽーととがくしゅうせいかのにんしょう)

キーワード : 学習成果、評価、活用、認証、学習履歴
今野雅裕(こんのまさひろ)
1.学習成果の評価と活用
  
 
 
 
  【背景】
 生涯学習審議会の平成4(1992)年答申は、生涯学習振興行政の究極の目標として「生涯学習社会の構築」を打ち出した。生涯学習社会とは、人々が生涯のいつでも自由に学習機会を選択して学ぶことができるだけでなく、その成果が社会において適切に評価されるような社会とされる。学習成果の社会的評価が生涯学習振興の重要課題と位置づけられることとされた。昭和62(1987)年の臨時教育審議会第3次答申が既に提案したように、学歴偏重社会の弊害を打破するため、学歴に代わって生涯学習の成果が社会的に評価されなければならないとする問題意識に基づくものであった。
 これを受け、関係の審議会等では学習成果の社会的評価が中心課題のひとつとして審議され、大学公開講座のうち一定水準以上のものを大学の単位として認定することや、公的職業資格取得の要件として学歴や実務経験のほかに、一定の生涯学習の成果でもって代替のできるようにすること等が進められてきた。しかし、生涯学習を公的に評価することについては、「評価それ自体が生涯学習にはなじまない」とか「自由であるべき生涯学習に方向性を与えることにつながりかねない」などの消極論が少なくなく、必ずしも十分な議論が進んでこなかった。
【認証・評価】
 生涯学習における評価の議論がうまく進まなかった背景には、評価という言葉の二義性の問題がある。つまり、「あることの存在を認め、表示する(認証)こと」と「価値あるものとして判断する(評価)こと」である。
 これまで一般に、資格や技能認定、学校での単位化などについて、学習成果を評価するものとして捉えられてきていたが、あえて上記の区分を前提に峻別すると、前者(認証)の意味に当たるものとみなせる。資格等の役割は「形に現わしにくい技能・能力(学習成果)を、一定の様式の下に、実態的なものとして認定し、外に向かって公示するもの」ということができる。そうすると資格の機能は「学習成果の評価」ではなく、「学習成果の認証」の一類型と言い得る。「評価」という言葉には、「一定の基準の下でその価値の有無・程度を判断する」ということが第一義的に連想される。資格付与機関が行っているのは認証というべきだろう。社会的な「評価」はむしろ、資格付与の後で、企業などが資格を持つ人材に対して行われるもので、人材評価に際して資格の有無が判断材料の一つとして用いられるものと見るべきであろう。
【活用・評価】
 平成11(1999)年の生涯学習審議会答申『学習の成果を幅広く生かす』では、学習成果を評価する側からではなく、学習成果を生かして活動を行う個人の側から検討を行った。そして、個人の学習成果の活用促進という観点から、生涯学習の成果記録票(「生涯学習パスポート」と呼んでいる)の作成・活用を提言している。これは、個人が進学や就職・転職、あるいは社会的な活動につく際に個人の資質能力等をより適切に評価してもらうことを期待して、生涯学習によって得た能力等の学習成果を詳しく記述し提示するものである。それらをどう評価するかは、結局、企業や学校等の社会の構成者・セクターの側であり、個人とすれば個人の学習成果をアピールし、実際の資質能力に見合った評価をしてもらうようにするだけである。学習成果を活用することと評価することとの二つの側面に分けて考察することは十分意味があると考えられる。
 
 
 
  参考文献
・生涯学習審議会答申『学習の成果を幅広く生かす』平成11年
・財団法人日本生涯学習総合研究所 文部科学省委嘱調査研究『「生涯学習パスポート」(生涯学習記録票)に関する調査研究』平成13年−15年
・中央教育審議会答申『青少年の奉仕活動・体験活動の推進方策等について』平成14年
 
 
 
 
  



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