登録/更新年月日:2013(平成25)年4月27日 |
|||||||||||||
|
|||||||||||||
|
|||||||||||||
まず、能力認証制度とは、資格(qualifications)にかかわる制度である。では、そもそも資格とは、何か。たしかに資格とは、評価の一つの形態である。評価とは、価値判断のすべてを一般的には含む。ただし、その多くは移ろいやすい。そこで、一定のことを行うために必要とされる条件や能力への評価に関しては、敢えて固定化する。そして、評価を固定化して「資格」とする時に求められるのが、制度化された手続きである。語源としてもqualificationは、「予選通過する」という意味の動詞であるqualifyを名詞化したものである。よって、資格qualificationとは、入学や就職の際には、いわば本戦(決勝ラウンド)への進出条件、すなわち書類選考における判定基準となる。したがって、個人の学習成果に対して与えられる資格qualificationには、学歴や修了証書や技能検定などの「組織的に固定化された評価(およびその証明書類)」がみな含まれることになる。その際、「論理性」「功利性」「倫理性」が求められ、そのいずれかでも欠けていると認識した場合、問題があると感じることとなる。 さて、能力認証制度は、いつ始まったのか。大学学位は、イギリスにおいても、中世まで遡ることができよう。一方職業にかかわる力量に関しては、徒弟制(apprenticeships)によって養成されてきたものの、熟練・半熟練の労働者に対する能力検定試験は19世紀半ばから始まる。それら能力認定試験が広まった契機は、1867年のパリ万国博覧会であった。そこにおいて、産業革命を開始しそして主導していたはずだったイギリス工業製品は、国際的な技術水準と競争力が明らかに低下していた。そこで、熟練・半熟練の労働者に対しても、科学知識を習得させる必要性が強く認識され、その到達度を認証するための資格(qualification)が、民間主導で整備されていった。ただ、当時の認証内容は、基本的に座学による知識ではあった。 イギリスの能力認証において他国に比べての大きな特徴となるのは、ボランタリズム(voluntarism)であるといえる。有志による自発的取り組みを何よりも尊重するこのボランタリズムは、19世紀以来、国営化が政策となった時期でさえも根強くあったといえる。それゆえイギリスにおける技能の認証は、ドイツの職業資格制度が職種ごとに対応して法的に規定されているのに対して、法制化までほとんど進むことなく、民間がほとんどの職業資格を設定・認証する伝統が続いている。現在その職務基準の設定は、労働組合等が討議のメンバーに入りつつも、雇用主主導によってなされる。NVQを含め職業資格の評価基準の基となる職務基準は、雇用主や労働組合、職能団体等の代表からなるSSC (Sector Skills Councils, 産業分野別技能協議会)が設定している。このようにして設定した職務基準をもとに、シティ・アンド・ギルズ(City & Guilds of London Institute, ロンドン市同業組合協会)やエデクセル(Edexcel)といった資格付与機関(awarding bodies)なる民間機関が資格を授与する。 よって、政府の役割は、サッチャー政権以降、枠組みとしての制度を政策立案して、自発的取り組みをその枠組みのもと奨励・支援することが中心となる。 br> |
|||||||||||||
|
|||||||||||||
参考文献 ・日本産業教育学会編. 2013. 『産業教育・職業教育ハンドブック』 大学教育出版, pp. 230-233 (小澤周三・新井吾朗・柳田雅明・白幡真紀 「イギリス」) ・柳田雅明・新井吾朗. 2007. 「イギリスの徒弟制度 ―製造業における現代化を中心に―」 平沼高・佐々木英一・田中萬年 編著『熟練工養成の国際比較 ―先進工業国における現代の徒弟制度―』ミネルヴァ書房 |
|||||||||||||
『生涯学習研究e事典』の使用にあたっては、必ず使用許諾条件をご参照ください。 |
|||||||||||||
Copyright(c)2005,日本生涯教育学会.Allrights reserved. |