生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2013(平成25)年4月27日
 
 

イギリスにおける能力認証制度 (いぎりすにおけるのうりょくにんしょうせいど)

キーワード : 全国資格枠組み、QCF(資格・単位枠組み)、アカデミック−職業デバイド、NVQ(全国共通職業資格)、イギリス
柳田雅明(やなぎだまさあき)
2.イギリスにおける職業資格推進政策 NVQの導入と全国共通資格枠組みの構築
 
 
 
 
   イギリスにおいて、職業資格が本格的に政策対象となったのは、1986年からである。1979年成立のサッチャー保守党政権は、それまでの「ゆりかごから墓場まで」の労働政策を根本から変えた。たしかに政権獲得当初はレッセ・フェール(自由放任)であったものの、1980年代前半からは、失業手当の受給資格を大幅に制限して、その財源を職業教育・訓練に充てて雇用を促進していく政策を採用した。ところが、そこに「参加しても何も身に付かない」状況は、キャラハン労働党政権時代からほとんど変わらなかった。労働条件の法的規制と教育訓練機会の提供によって推し進められてきた政策では、いわば手詰まりとなった。そこで職業に関する力量を認証する「資格」が着目されることとなった。
 ところが、当時イギリスにおいては、イギリスでは、基本的に民間の認証機関任せで「資格」が設定されてきたため、秩序だった整理や理解が困難な「資格ジャングル」と言われるような状況に陥っていた。「資格」に関する情報は、学校においても、職業能力開発の現場においても、整理されない錯綜する形で入ってきていた。
 そのためキャリア・ガイダンス(進路指導)で学習者(生徒)に適切な進路を示すことが容易でなかった。人事担当者が、就職志願者が取得した「資格」が対応する職務上の力量を的確に判断することも容易でなかった。さらに、既習得の「資格」を活用して新たな資格を取得しようとしても、学習の重複を強いられがちとなった。そこで、共通の準拠基盤を設けることで、これらの問題を解決することが期待されることとなったのである。
 ただイギリスでは、後期中等教育修了かつ大学入学者選考での「黄金のスタンダード」とされるGCE-Aレベル、そして大学学位などの「学術資格(academic qualifications)」ばかりに威信があり、職業系の資格の地位が低いと言わざるを得なかった。そこで、現場で発揮される力量を認証する資格を、威信ある「学術資格」と対等とすべく、それらの水準に合わせて設定した。それが、NVQ (National Vocational Qualifications、全国共通職業資格)であった。そして、NVQの5つの水準に合わせて設定した全国共通の資格枠組みが、政策推進上使用されることとなった。
 1996年には、NQF(National Qualifications Framework, 全国資格枠組み)が公式の名称となり、政府もそれを政策上前面に出すようになった。翌1997年には、中央政府による資格取得推進策が強く打ち出されている。したがって現在、イギリスの人々は、特別な才能や資産がある場合を除いて、資格(qualifications)から逃れがたい状況にあるといえる。NQFは、職業教育と普通教育との単位組み合わせ方式によるGNVQ (General National Vocational Qualifications, 一般全国職業資格)の導入と改廃といった曲折がありながらも、高等教育水準の段階をきめ細かくしたりまた下位の水準を付け加えたりしながら、2008年にQCF(Qualifications and Credit. Framework、資格・単位枠組み)(添付資料)が公になり、2010年以降はそれに完全移行している。 添付資料:「資格・単位枠組み」(イングランド・北アイルランド)
 
 
 
  参考文献
・Office of the Qualifications and Examinations Regulator. 2008. Regulatory Arrangements for the Qualifications and Credit Framework. Coventry: Office of the Qualifications and Examinations Regulator.
・柳田 雅明. 2004.『イギリスにおける「資格制度」の研究』多賀出版
 
 
 
 
 



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