生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2013(平成25)年4月27日
 
 

イギリスにおける能力認証制度 (いぎりすにおけるのうりょくにんしょうせいど)

キーワード : 全国資格枠組み、QCF(資格・単位枠組み)、アカデミック−職業デバイド、NVQ(全国共通職業資格)、イギリス
柳田雅明(やなぎだまさあき)
3.課題
  
 
 
 
   さて、イギリスにおける能力認証制度における課題は、どこにあるのか。
 まず、職業資格の威信が依然として高くならないことを挙げざるを得ない。アカデミック−職業デバイド(academic-vocational divide)という名で、両者間にある断絶そして格差が積年の課題となっている。
 たしかに政策上「等価値としての評価(parity of esteem)」が言い続けられている。4地域に3つ設定されている「全国資格枠組み」でも、職業系の資格と学術資格を全くの横並びとして両者が対等であると明示している。「見習教育訓練(Apprenticeships)」では、「労働に基盤を置く学習で得た力量」に加え、機能的な基礎学力そして原則として職務に関する理論的知識の習得が併せて求められている。
 ところが、職業資格を組み込んだ教育プログラムの威信は高まらない。そして、その状況は、成人復学者を対象とする取り組みにおいても見られる。筆者が直接授業に参与観察ができた事例を通じて示していこう。その取り組みは直接の職業教育ではなく、いわば義務教育修了水準のものであった。成人教育の先進的実施機関として知られるロンドンのシティ・リット(City Lit)で開講されている「勉学への復帰(Return to Study)」の授業である。そこでは、GCSE(General Certificates of Secondary Education, 中等教育一般証書)の取得を強く奨励している。GCSEとは、標準16歳の義務教育終了時に原則全員受験である学業到達度認定資格であり、QCF(Qualifications and Credit. Framework、資格・単位枠組み)での水準2もしく水準1となる。日本でいえば高校1年修了相当である。すなわち、一般若年者と同じ学力認定を受けることが求められている状況にシティ・リットも対応しているのである。その背景としては、水準2以下の職業資格を取得しても、収入として見返りが少ないことがある。そのことは、政策推進側からも実証的に提示され、その内容が教育専門紙として最も有力とされる『タイムズ教育版(Times Educational Supplement)』2007年7月13日号でもかなり大きく報道されている。
 また、各水準にある資格の到達度を必ずしも行政機関が保障しているわけではないことも言わなければならない。すなわち、いわば資格を出す側の言い値になっているところがある。行政機関による監察は、最低基準の維持や問題事例のチェックも含め、事後対応が基本となっている。たしかに自発的取り組みを事後チェックするということで営利企業に公的資金の導入が参入しやくなるのであるものの、問題が起こってから対応するということがそもそもの制度設計になっているのである。
 その上で、年齢を重ねた者たちへの取り組みにも課題がある。現職者は、すでに自立済みとの想定のもと、支援政策の対象となりにくくなっている。企業(事業所)も、従業員の能力開発に、政府の直接関与を求めない場合が多い。また、熟練度が低く、パートタイムや期限付きそして訓練なしに就ける仕事(jobs without training)の割合が高まり、雇用が不安定化している状況も、能力認証すなわち「資格」にかかわる取り組みにも影を落としてもいる。
 
 
 
  参考文献
・Department for Education. 2011. Wolf Review of Vocational Education: Government Response. London: Department for Education.
・柳田雅明. 2008.「イギリスにおける成人に対する補償学習機会の検討: シティ・リット Return to Study を事例に」『日本生涯教育学会論集』29号
 
 
 
 
  



『生涯学習研究e事典』の使用にあたっては、必ず使用許諾条件をご参照ください。
<トップページへ戻る
 
       
Copyright(c)2005,日本生涯教育学会.Allrights reserved.