生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2008(平成20)年2月5日
 
 

オーストラリアにおけるメンタリング運動 (おーすとらりあにおけるめんたりんぐうんどう)

Mentoring movement in Australia
キーワード : メンタリング、メンタリング・プログラム、青少年問題、オーストラリア、ボランティア
渡辺かよ子(わたなべかよこ)
3.メンタリング運動の発展(2001年以降)
  
 
 
 
   Mentoring Australiaの結成とその活動に象徴される各種メンタリング運動の発展、ならびに2001年に発表された首相による青少年生き方行動計画特別委員会(Prime Minister’s Youth Pathways Action Plan Taskforce)の報告書によって、メンタリング運動は青少年の就業支援に向けた大規模な国家戦略の中核へ変貌を遂げていった。同委員会は、青少年の一人立ちにとっての教育と雇用の重要性を強調し、就業支援のための各機関の連携強化の必要性を提唱すると共に、すべての青少年に、信頼し支援・指導・世話を求めることができる少なくとも一人の安定した大人が必要であるとし、メンタリング・プログラムの推進を奨励した。
 2002年には、上記報告書を受け、家族コミュニティサービス省がMentor Marketplaceプログラム開始した。同プログラムは、3年間に27のメンタリング・プロジェクトに400万ドルの補助金を交付し、メンタリング運動の全国的展開に強力な指導力を発揮した。司法省も全国犯罪防止プログラムの一環として2001年に原住民系青少年の非行防止のためのPanyappiプログラムを設立すると共に、翌2002年には犯罪防止のための早期介入政策としてのメンタリング・プログラムに関する調査研究に着手した。国内外の文献ならびに国内の21のプログラムを分析対象とする2003年の報告書は、メンタリング・プログラムが優れた成果を生み出す要件を総括し、より良い実践に向けた全国ワークショップ会議の開催やマニュアル作成、プログラム評価ならびにプログラムへの財源確保を勧告した。
 2004年には、Mentoring Australiaが青少年向けメンタリング・プログラムの発展とそれが繁栄する環境確立のため、国家戦略としてのメンタリング・プログラムの整備と支援を勧告した。2005年には前述のMentor Marketplaceプログラムへの第三者評価に関する最終報告書が出され、メンタリング・プログラムの効果については、多くは短期評価が不可能であるものの、全般的に関係者に良好な成果をあげていることが確認され、青少年の積極的役割モデルとなるメンターの影響力が評価され、今後の実践原理として、メンタリングを関連する分野の一連のサービスに統合し、文書化された構造と政策の保持等が提言された。
 以上のオーストラリアのメンタリング運動の特徴としては、学校でのプログラムを中心に、外国でのプログラム事例とその効果を精査しながら、自国の問題状況に応じたメンタリング運動を展開していることがあげられる。1970年代にすでに学校での保護者によるボランティア活動の一環としてメンタリング運動の萌芽を形成していたオーストラリアでは、1990年代のメンタリング運動の本格的興隆に際してもその中心は学校にあった。同じ移民の国である米国でのメンタリング運動が学校と連携するのは地域コミュニティの各集団によるメンタリング運動が成熟してからであることを考えると、学校がメンタリング運動の重要拠点となっている点が、オーストラリアのメンタリング運動の特徴をなしているといえ、地域コミュニティの中核として学校の機能を最大限活用しながら、種々のメンタリング・プログラムを展開していることが特筆される。
 
 
 
  参考文献
・渡辺かよ子「オーストラリアにおける青少年向けメンタリング運動」日本生涯教育学会論集27、2006年
 
 
 
 
  



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