生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2006(平成18)年1月27日
 
 

社会教育の歴史−明治期 (しゃかいきょういくのれきし−めいじき)

キーワード : 通俗教育、通俗教育調査委員会、三条教憲、山名次郎、社会改良
蛭田道春(ひるたみちはる)
3.社会改良的な考え方
  
 
 
 
   社会改良的な考え方の系譜には、社会教育論者が直接的に社会改良を主張するもの、具体的には地方改良運動の考え方、青年団、図書館のあり方を強調するものなどをあげることができよう。まず、代表的社会教育論者の主張として、わが国最初の社会教育論といわれている山名次郎の「社会教育」(明治25(1892)年)に言及してみよう。
 山名は、「・・・・教育は社会を教育し社会は教育を輔助する」とあるように、社会は教育するという観点を提示しながら、社会は一大勢力であるから教育上に此勢力を利用することが大事であると述べている。そして、社会の風紀紊乱を改善して善良なる風紀を作るために、「・・・此社会を薫陶教化する為には社会自身に教育を脩めし併せて普通教育の普及上進を図るが為に社会をして・・・」と社会教育が必要であるろ述べている。
 この山名次郎の社会教育観と同じ系譜に属する者として、佐藤善治郎著「最近社会教育法」(明治32(1899)年)にも、「予が社会教育と謂ふは学校教育に対する名称にして社会其物を教育し智識道徳を高めんと云ふ」ことにあると述べている。そして、社会教育の役割は、「社会の知識を高め開明を増進し徳性涵養品性陶冶の基礎を鞏固」にしなければならぬと主張している。
 このような社会改良的な考え方は、そのほかに、庵地保「通俗教育」(明治18(1885)年)にもみられる。また、当時、通俗教育講演会や幻燈会等も、民衆の智徳涵養するために催されたのであった。この智徳涵養の考え方は、通俗教育調査委員会(明治44(1911)年)、臨時教育会議(大正6(1917)年)の趣旨にも散見される。
 つぎにあげられるのが明治30年代に起こった地方改良運動(自治民育)の考え方である。これは、町村財政の動揺などの結果、内務省の「地方自治の振興」としての産業振興、勤倹貯蓄等の奨励であった。この自治民育の基本は、旧来の地域共同体を尊重しながら、伝統的自治の精神を尊重するもので、経済と道徳とを一致させて町村の改良をはかるものであった。そのため、全国でいくつかの模範村が設定された。例えば、千葉県山武郡源村、静岡県稲取村、宮城県生出村等は、町村自治の模範村として紹介されている。この地方改良運動に大きく関与したのが、井上友一(内務省)、岡田良平(貴族院議員)、留岡幸助などによって、育成された報徳社であった。また、農業の智識・技術を普及させて農業の改良進歩を目的とした大日本農会の運動も見逃すことができない。さらに、農業教育を発展させるために巡回講演の実施、農事試験場、農会などの設立などがある。
 
 
 
  参考文献
・文部省『学制百年史』昭和47(1972)年
・鈴木博雄編著『原典・解説 日本教育史』図書文化、昭和60(1985)年
・湯上二郎編著『社会教育概論』日常出版、昭和57(1982)年
 
 
 
 
  



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