生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2006(平成18)年1月27日
 
 

佐藤一斎の生涯学習論 (さとういっさいのしょうがいがくしゅうろん)

キーワード : 『言志四録』、学び、立志勉励、言志晩録第60条、岩村町
上寺康司(かみでらこうじ)
3.生涯学習のライフサイクル論
  
 
 
 
   佐藤一斎の生涯学習論の特徴は,人間の一生涯にわたる学びの重要性について,ライフサイクル論的な観点から展開していることにある。佐藤一斎の生涯学習論を代表する有名な条文が『言志晩録』第60条である。すなわち「少(わか)くして学べば,則ち壮にして為す有り。壮にして学べば,則ち老ゆとも衰へず。老いて学べば,則ち死すとも朽ちず。」(自らが人間としていかに生きるかの志を立てて10代,20代,30代でしっかりと学べば,40代50代で物事を成し遂げることができる。40代50代でしかっりと学べば,60代70代80代となっても衰えることはない。60代70代80代でしっかりと学べば,充実した人生を全うすることができる。)である。この条文は,人生のライフサイクルを少,壮,老と簡単に捉えた上で,各ライフステージにおける学びの意義,各ライフステージ゙間の学びの関連性を明白簡易に捉えている。
 『言志晩録』第60条と同様の意味を述べているのが『言志耋録』第328条である。すなわちこの条では「人生,20より30に至るは,方(まさ)に出でんとする日の如く,40より60に至るは,日中の日の如くにして,盛徳大業は,此の時候に在り。……少壮の者は宜しく時に及んで勉強し,以て大業を為すべし。」と述べられている。人間のライフサイクルを日の出から日の入りまでの1日の営みにたとえ,日中(午後12時から午後3時ころ)にあたる40歳から60歳までの壮の時期に盛徳大業を為すために,日の出から午前12時くらいにあたる20歳から30歳の少の時期にしっかりと勉強することの重要性を特に指摘している。少壮の時期にしっかりと学び,壮の時期に為すこと,すなわち盛徳大業を為すことについて,『言志晩録』第60条を補完する内容である。『言志晩録』第60条は,人間の一生涯にわたる勉強の重要性,生涯学習の根本を示すものとしてよく引用されている。また,個人の一生涯にわたる学びとしての生涯学習の意義が明白簡易に示されているので,人々の心に響き,人々が日々の学びを実践するための原動力となりうる。
 佐藤一斎の生涯学習論の中心をなす『言志晩録』第60条は,「まちづくり」にも影響を及ぼしている。一斎は,美濃岩村藩の家老の次男として江戸藩邸で生まれたのであり,岩村の町は,一斎にとってゆかりの地である。岐阜県恵那市岩村町では,歴史資料館の広場の一角に佐藤一斎顕彰碑があり,そこには『言志晩録』第60条が刻まれている。同町では平成9年から,一斎の命日(旧暦の9月24日)に近い休日に「言志祭」(佐藤一斎まつり)を開催し,平成17年で9回を数えるに至っている。平成14年の第6回目の「言志祭」は佐藤一斎の生誕230年の節目の年であり,それを記念して一斎翁の座像も『言志晩録』第60条の三学戒の石碑のそばに建立された。岩村の町の一角は,重要伝統的建造物群指定地域となっており,その地域を中心として,『言志四録』から抜粋した条文の石碑が,『言志晩録』第60条を始めとして10箇所程度建立されている。加えて同指定地域には,『言志四録』から200条を抜粋して作成した木製の彫版が各家庭や商店,施設に掲げられている。平成17年からはNPO法人いわむら一斎塾斎研究会が設立され,佐藤一斎に関する内容を中心とした講演会及び『言志四録』講読会を定期的に開催している。
 
 
 
  参考文献
・岡田武彦監修『佐藤一斎全集』(第11巻)明徳出版,平成2年。
・岡田武彦監修『佐藤一斎全集』(第12巻)明徳出版,平成5年。
・上寺康司「佐藤一斎における教育思想の現代的意義〜『言志四録』に焦点をあてて〜」,中国四国教育学会編『教育学研究紀要』第47巻,第一部,平成13年。
・上寺康司「佐藤一斎の『言志四録』にみる『学び』のための心の工夫」,『福岡工業大学研究論集』第37巻第2号,平成17年。
・佐藤一斎翁に学ぶ温故知新の会『佐藤一斎言志四録手抄 彫板 名言集』平成14年。
 
 
 
 
  



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