生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2006(平成18)年11月4日
 
 

熟年大学 (じゅくねんだいがく)

senior college
キーワード : 高齢者学級、老人大学、社会参加、公民館活動、学習参加の効用
塩谷久子(しおたにひさこ)
1.熟年大学の定義、目的、歴史
  
 
 
 
  【定義】
 「熟年大学」とは高齢者を対象とする学習機会を指し、「高齢者学級」、「老人大学」などと同様の意味を持つ。高齢者のための学習機会は、かつては「老人大学」という名称が多かった。1980年代頃より高齢者を形容する言葉として「熟年」がマスコミに登場してから、語感のよさを理由に「熟年大学」という名称が頻繁に使用されるようになった。
【目的】
 熟年大学は、ほとんどが市町村や社会福祉協議会が設置主体となっており、社会教育の一環として運営されている。設置目的は、第1には高齢期の学習支援を通して、高齢期の生活の質(QOL)の向上を図ることである。近年は要介護予防も視野に入れている。第2には、参加者に地域リーダーとしての活躍を期待し、学んだ成果を還元することによる地域活性化を目指すものである。これは高齢者の学習参加がシチズンシップの涵養という役割を持つことを意味している。 
【歴史】
 高齢者の学習機会は、戦後において教育行政と社会福祉行政の双方から公民館活動の一環としてサポートされてきた。その当時から、現在の熟年大学の活動までには3つの歴史的段階がある。
 第1段階は戦後から1970年代末までの「基盤整備」の段階である。戦後初期の公民館活動は地域づくりの拠点として期待された。高齢者の学習機会は福祉的な事業と考えられ、福祉的色彩の強い公民館事業の中に取り込まれて発展していった。同時期に老人クラブもスタートし、高齢期の生活を有意義に過ごすための地域の生活基盤が法的に整備されはじめた時代である。その後、社会教育法の改正などにより、教育と地域福祉の業務分掌が明確になり、公民館活動と福祉の関連性が薄れていった。一方、ゆとりのある市民層の出現で公民館活動は市民大学に代表される都市型公民館のタイプへと変容していった。高齢者の学習機会も、教育委員会や社会福祉協議会が主催する講座や学級が増加し、熟年大学、高齢者学級、老人大学などの名称で広まっていった。
 第2段階は1980年代から1990年代半ばまでの「生きがい対策」として重視された段階である。1985年(昭和60年)には日本人の平均寿命が80歳を超え、高齢者人口の量的拡大があった。この背景の下に、高齢者は生きがいを持って自立して生きることを要請された。教育行政・福祉行政の双方から高齢者の自立を推奨し、生きがい対策のプログラムが数多く提供されるようになった。これらの中にも熟年大学の名称を用いた学習機会が生じ、多くの市民の参加を得てきた。
 第3段階は1990年代半ばから現在にいたる「共生と介護予防」の段階である。1994年は高齢者人口が総人口の14.1%に達し、世界保健機構(WHO)の定義する高齢社会へと突入し、高齢社会の一つの区切りの年であった。この時代の特色は、高齢者は「保護」される世代ではなく、人々と「共生」する存在であるとする高齢者観の転換が明確に打ち出されたことである。さらに「健康寿命」という言葉に象徴されるように要介護状態にならないための「介護予防」政策が強化された。「熟年大学」をはじめとする高齢者の学習機会においても、健康関連テーマの講座が多く提供されている。
 
 
 
  参考文献
・厚生省社会局施設課『老人クラブの運営とその実務』全国社会福祉協議会、1964年。
・厚生省監修『平成12年版 厚生白書』ぎょうせい、2000年。
 
 
 
 
  



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