生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2006(平成18)年10月28日
 
 

青少年の自然体験活動 (せいしょうねんのしぜんたいけんかつどう)

experiential activities of outdoor for youth
キーワード : 自然体験活動の意義、直接体験、感性、集団宿泊活動
渋谷健治(しぶやけんじ)
1.自然体験活動の意義
  
 
 
 
  【定義】
 「自然体験活動」とは、自然の中で自然を活用しながら、身体や五感を使って行われる活動である。
【説 明】
 「自然体験」という用語は、昭和50(1980)年代半ば以降、自然との触れ合いや自然界での活動を通した感動体験等を指して使われ始めた。その後、昭和60(1985)年1月に文部省が各都道府県教育委員会等に通知した「青年の家・少年自然の家の利用促進について」で公的に使用され、以後多用されるようになった。
 今日、自然の中で体験的な学習を通して行われる教育活動を総称して自然体験活動と呼んでいる。この用語が普及する前は、学校行事や地域行事などで自然の中で行われる活動は、総じて野外活動と称された。
 学校教育では平成10(1998)年12月、自ら学び自ら考える力を育てる実際的な教育への転換を図るため、児童生徒の「生きる力」の育成をねらいとした「学習指導要領」の改訂がなされた。この改訂により、今日、自然体験活動やボランティア活動の充実など、体験的な学習を重視した取組みが進められている。
 また、青少年の豊かな成長に欠かせない直接体験の機会や場を充実させるため、平成13(2001)年7月に学校教育法と社会教育法が改正され、自然体験活動や社会奉仕体験活動を一層充実していくための法的な整備が図られた。
【意義】
 戦後の急速な経済成長に伴い、都市部では子どもの遊び場としての空き地や原っぱが消失し、地方では豊かな森が放置され、子ども達が分け入ることのできない森に変貌している。情報化やマスメディアの発達、家庭環境や地域環境の変化は、青少年を戸外での集団的遊びから室内遊びへと転換させた。こうして、子ども達の自然体験や生活体験が貧困化し、情報から得られた知識(情報知)が先行し、体験を通して得られる実際的知識(体験知)の不足を生み出している。この結果、青少年の体力や運動能力、人や自然に対する感性、表現力やコミュニケーション能力、規範意識、命を大切にする心情などの低下が指摘されている。
 人類は、系統発生的に自然からの恵みのもと、自然に適応した存在として長い進化の過程を歩んできた。自然を疎外した人間の生活行動様式は、今日、身体的生理的に様々な拒絶反応を生じさせている。
 マスメディアやゲーム機器等による疑似体験が増える中、自然の中で集団で行われる直接体験の機会は、社会的存在としての人間性回復の場である。自然界の生き物や仲間・多様な人々との関わりを通して感性を豊かにし、自己概念や対人関係能力、情意領域など、青少年の豊かな人間性を培う上で自然体験活動への期待は大きい。
【課題】
 学校教育では、集団宿泊行事等で青少年教育施設等を利用した自然体験活動が行われている。今日の青少年の実体験の欠如を踏まえると、自然物や自然現象等を五感で感じる原体験や生活体験が得られる集団宿泊活動の教育的意義は大きい。しかし、実施形態は1,2泊が一般的であり、この結果余裕のない活動展開となり、子ども達が消化不良のまま終了してしまう事例も少なくない。また、自然体験活動における安全対策は不可欠であるが、安全を重視するあまり、青少年の主体性や自発性がそがれる活動とならない指導が必要であろう。合わせて自然体験活動で十分な成果を得るためには、これらに係わる指導者の育成、特に資質の向上と確保も大きな課題である。



 
 
 
  参考文献
・「青年の家・少年自然の家の利用促進について」昭和60年1月16日(各都道府県教育委員会、各指定都市教育委員会教育長あて、文部省社会教育局長通知)
 
 
 
 
  



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