生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2006(平成18)年1月27日
 
 

多様化する家族と子ども (たようかするかぞくとこども)

various kinds of families and changing parent-child relationships
キーワード : 近代家族、ライフスタイル、家族規範、ポストモダン家族
梶井祥子(かじいしょうこ)
1.家族の多様化
  
 
 
 
  【説明・動向】
 家族の多様化とは、急速な高度経済成長が終息した1970年代後半から顕在化した現象である。形態面では、<両親と未婚の子ども>という核家族世帯の割合が減少し、それ以外の形態が多様に認められるようになったことで多様化を把握できる。しかし家族の多様化を考える場合、意識面での進行がより重要であると思われる。
 私たちが「家族」という言葉でごく当たり前に意味している家族像を、家族社会学では「近代家族」と呼んでいるが、家族の多様化とは、その近代家族の<揺らぎ>として表れた。それまで画一的だった家族のあり方が相対化され、家族形成の契機、家族の様態、そして家族とは何かという意識までもが個々人の選択によって決められるという傾向が広まった。つまり、家族意識の多様化である。このような家族についての選択可能性の拡大を、家族社会学者の野々山久也は「ライフスタイルとしての家族」という次元で捉えた。さらに、家族内における凝集性は弱まる傾向にあり、離婚率の増加、あるいは家族の構成員がそれぞれ個々の自己実現に向けて家族役割を無視して活動するような兆候も見られるようになった。このように家族の多様化は、家族の脆弱性あるいは流動性が明らかになる過程としても捉えられる。
 戦後日本の家族の変容を辿ってみるならば、近代家族が汎化していく時期と、それが揺らいで多様化する時期というふうに、大きく二つの時期に分けて論じることができる。
 戦後の復興期から高度経済成長期を経て富裕化が行きわたる1970年代前半までは、近代家族が一般化した時期である。家族の形態は、戦後から70年代前半まで、家族規模の面では小規模化へ、家族構成員の面では核家族化へと、あるひとつの型へ収斂していった。「両親と未婚子2人」という家族構成は「標準家族」としての地位を得る。高度経済成長期に大衆的に定着した家族の特徴として、既婚女性の専業主婦化、子ども数の減少を挙げ、落合恵美子は「家族の戦後体制」と称した。
 このように戦後日本に定着した近代家族は、75年頃を境に核家族率や既婚女性の専業主婦率が頭打ちになることで、形態面での多様化が徐々に始まったと考えうる。単親(母子・父子)家族の増加とともに、シングル世帯の増加、DINKS(共働きで子どもなし)という形態も出現し、多様な家族のあり方が新たなライフスタイルとして受け入れられるようになってきた。このような形態面での多様化は、家族規範の希薄化を伴ったものであり、家族形成意識の変化、固定的な家族観からの解放も同時に認められるようになった。  
 高度経済成長期がもたらした富裕化による生活環境の変化、女性の職場進出の増加とフェミニズムの動き、高度消費社会・情報化社会とともに浸透した個人主義的な自己実現欲求の拡大は、家族の多様化を促進する背景となった。
 家族の多様化は現代の家族変動の一側面である。多様な家族の形態、そして家族に関する多様な考え方が混在するのが現代である。近代家族の理念にとらわれない新たな家族を、<ポストモダン家族>あるいは<現代家族>と呼ぶこともある。
 
 
 
  参考文献
・ 落合恵美子『21世紀家族へ』有斐閣、平成6年
・ 落合恵美子『近代家族の曲がり角』角川書店、平成12年
・ 野々山久也ほか編著『いま家族に何が起こっているのか』ミネルヴァ、平成8年
 
 
 
 
  



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