生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2010(平成22)年10月10日
 
 

アメリカ高等教育におけるサービス・ラーニング (あめりかこうとうきょういくにおけるさーびす・らーにんぐ)

キーワード : サービス・ラーニング、アセスメント、コミュニティ・サービス
志々田まなみ(ししだまなみ)
2.サービス・ラーニングのアセスメント
  
 
 
 
   高等教育、地域社会との垣根を越え、ともに教育活動を運営していくためには、両者のニーズに合致した望ましい連携関係を協議し、その状態を評価していくことが重要になってくる。近年、こうした教育改善のために、計画や今後の方針の根拠となる事実をそろえる自己評価の枠組み=アセスメント、の開発が大きな課題となっている。
 サービス・ラーニングは、各機関が地域社会のために何が貢献できるのかを問うことから出発するが、同じ活動であっても、高等教育機関(学生)と地域社会の機関(サービス享受者)のそれぞれが考える「恩恵」は異なるため、長い間、共通のアセスメント方法を開発することは敬遠されがちであった。
 しかし本来、すべての機関が有機的に結びついて事業を企画、運営しているのだから、アセスメントの部分だけを別個におこなうのは不適切だといわざるをえない。さらに、連携相手からアセスメントの協力を求められても、事情がわからないことや関心が薄いこともあって、社交辞令ともいえる高評価がなされたり、いい加減な評価活動が行われることにもなりかねない。
 そこで、すべての連携先が、遠慮することなく評価ができる、安全な環境づくりをめざすアセスメント方法として近年注目されているのが、ジェルモン(Gelmon、 S.B.)による「地域社会レベルのアセスメント」(community-level assessments)である。
 ジェルモンのアセスメントモデルは、大きく3つの点でわが国の高等教育における地域連携事業のアセスメントに示唆を与えてくれるだろう。
 第一に、地域社会で実施される活動のアセスメントは、それに関わったすべての人(学生、大学教員、地域社会の参加者、運営委員、諮問委員など)がアセスメントに携われる仕組みづくりを整えなければならないと指摘している点である。評価というと活動は一般的には敬遠されやすく、専門家や管理職の立場にある一部の人々に任せきりになってしまいやすい。ジェルモンは、地域社会は特定の個人ではないのだから、可能な限り多くの人々からの情報を収集することでしか、適切なアセスメントは実行できないと主張する。そして、参加者すべてを対等な関係とみなし、同じサービス・ラーニングを提供する連携相手としてアセスメントに取り組むことを発想している。
第二に、アセスメント活動の複雑さを取り除き、誰でもアセスメントに参加できるよう、わかりやすく記入できる指標でなければならないとしている点も注目に値する。平易な質問項目を用い、アセスメントに対する不安感を取り除き、アセスメントの必要性を理解しながら記入できる工夫がなされている。さらに実態を具体的にあらわすために、「フォーカスグループ」(focus groups)や「危機的事例の分析」(critical-incident review)など、多様な社会分析の手法を柔軟に取り入れている点も参考になる。
 最後に、地域社会の機関と大学との日常的な相互関係(インタラクティブ)に着目している点も重要である。共同で実施する事業にのみ目を向けるのではなく、普段の交流やお互いに対する関心度についてもアセスメントの観点として取り入れている点は、地域社会との関係づくりを考えるのに示唆的である。自分たちが推進する活動だけでなく、大学と地域社会とが実施する他の取り組みも総合的にアセスメントすることによって、両機関の評価に関わる力の均衡を保とうとした方策は、常に冷静に点検しあえる土壌を醸成するのに役立っているといえよう。
 
 
 
  参考文献
・Gelmon, S.B., "Assessment as a Means of Building Service-Leaning Partnerships", Jacoby, B. and Associates, Building Partnerships for Service-Learning, Jossey-Bass, 2003.
 
 
 
 
  



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