生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2006(平成18)年1月27日
 
 

アメリカの高齢者教育 (あめりかのこうれいしゃきょういく)

Education for older people in the United States
キーワード : gerogogy、教育老年学、年齢差別、ニューエイジング、グローバルエイジング
伊藤真木子(いとうまきこ)
2.理論的動向・課題
 
 
 
 
   1961年に第1回「エイジングに関するホワイトハウス会議」(White House Conferences on Aging 以下、「会議」)が開催されて以来、ほぼ10年おきに同趣旨の国民会議が開かれてきたが、その際出されるレポートは、高齢者教育を理論的に方向付けてきた。たとえば第1回「会議」では、高齢者の健康や余暇活動に関するニーズに応えるソーシャルサービスが意義づけられ、1971年の第2回「会議」では高齢者の教育的ニーズが説明されて高齢者教育の施策化の哲学的基礎が示された。ついで1981年の第3回「会議」では若年層と高年層、前期高齢者と後期高齢者などと、人の特性や能力を年齢域と結び付けて浮き彫りにする傾向が見直され、「年齢無差別社会の創造」が強調された。1995年の第4回「会議」、2005年の第5回「会議」では、「ニューエイジング」「プロダクティブ・エイジング」をキーワードに、経済面でも心身面でも豊かなベビーブーマー世代のニーズに応ずる学習支援が方向づけられている。しかし一方で、1992年にはアメリカ高齢者法に「高齢者虐待」に関する内容が加えられるなど、経済的にも心身的にもハンディを負った高齢者が増えている。今後は、拡大する高齢期の「不平等」を意識した総合的な検討が一層重要となろう。
 このかん『Educational Gerontology』においては、「教育老年学」を、
ア.高齢者のための教育
イ.一般の人々のための(高齢者やエイジングについての)教育
ウ.上のア・イに関わるサービス従事者のための教育
という3つの対象層を想定した研究・実践の領域と説明してきた。高齢者教育はここでアの領域として位置づけられたことにより、様々な学術的・職業的バックグラウンドをもつ研究者や専門職者の関心対象となる。同誌においては、創刊後しばらくはアに関する論文が多いが、その後ウに関する論文が増え、近年はイに関する論文、そしてまた諸外国の事例についての論文が多く掲載される傾向にあり、高齢者教育それ自体の構造のみならず、高齢者教育のあり方を既定する社会的な構造がとらえられるようになってきたといえる。加齢に伴う認知スタイルや学習スタイルの変化を測定・評価する試みは時期を問わず数多くなされており、また性や死に関わる高齢者の意識や行動の実態が明らかにされるなか、対応して種々の学習プログラムの開発・評価がなされてきた。近年は祖父母教育や退職準備教育のなかでも、家族成員の養育・介護に必要なスキル、安全運転や健康維持、コンピュータースキルの獲得のための教育訓練など、より具体的な生活場面に即した学習支援のあり方や、各種学習プログラムを実施する機関や場に既定される特有の学習者層に焦点化した学習支援のあり方が検討される向きにあり、そのなかで、学習行動の開始と継続における動機づけに関心が払われている。今後は、「グルーバルエイジング」というキーワードに象徴される、高齢人口が提起する文化、経済、政治的なディレンマについての国際比較研究の意義が一層大きなものとなるであろう。
 
 
 
  参考文献
 
 
 
 
 



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