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登録/更新年月日:2015(平成27)年12月31日
 
 

宮城県にみる震災復興期の図書館 (みやぎけんにみるしんさいふっこうきのとしょかん)

キーワード : 東日本大震災、図書館支援、都道府県立図書館、震災支援、アーカイブ
熊谷慎一郎(くまがいしんいちろう)
1.東日本大震災と宮城県内公共図書館
  
 
 
 
   平成23(2011)年3月11日午後2時46分に発生した東北地方太平洋沖地震は,激しい揺れとその後に襲来した大津波を引き起こし,宮城県栗原市で最大震度7を観測,国内観測史上最大級とされるマグニチュード9.0を記録した。
 宮城県内の公立図書館も被災し,その被害の軽重はあれども,一定期間休館している。
 ここでは,宮城県における図書館の被災状況を大きく以下の2点としてまとめる。
(1)地震による被害により,震災以前の図書館サービス再開が困難になった図書館が多い。
(2)津波による被災地域では,図書館が高台にあり浸水を免れたところがある一方,浸水域にあった館は被害甚大である。浸水域にあった図書館をどう再建し復興していくかという課題が相対的に大きい。
 人的被害については,宮城県内の公共図書館に勤務する図書館現職者(震災発生時に勤務していた職員等)のうち,南三陸町図書館で死亡確認1名,石巻市図書館で行方不明1名となっている。いずれの方々も,津波による被災であり,地震の揺れに伴っての死亡者はいなかった。
 図書館は高台に設置されているところが多く,津波による被災地域であっても,浸水を免れたところは多い。むしろ地震の揺れにより建物が危険判定を受けた図書館や図書室もある。中でも名取市図書館は人口7万人を有し,17万冊超の蔵書を持っているにも関わらず,仮設の図書室を設置するまで,長きにわたり震災以前と同様のサービス展開ができない状況にあった。沿岸部にある七ヶ浜町は津波によって町の大部が被災した自治体であるが,図書センターそのものは浸水しておらず,津波による被災ではなく,地震の揺れによって建物が使えなくなったものである。
 津波により全壊・流失した図書館・図書室は,南三陸町図書館,石巻市図書館雄勝分館,石巻市図書館北上分館,女川町生涯教育センターである。中でも,南三陸町図書館は,建物ごと流失している。南三陸町の図書館は,他の津波被災建造物と異なり,基礎部分や柱部分も確認できず,文字通り跡形もない状態であり,資料の保全といったことすらできなかった。この他,多賀城市立図書館大代分室,岩沼市図書館東分館,東松島市図書館の配本所(大曲市民センター,野蒜市民センター),塩竈市民図書館の配本所(公民館浦戸分館(野々島))も浸水により資料が水損もしくは流失している。
 建物が使えない場合の仮設サービスとして移動図書館車を用いたサービスがいくつかの自治体でなされていた。仙台市や名取市では,建物の代替手段として移動図書館を用いている例があった。また移動図書館サービスを提供する自治体もある。従来のステーションに加え,仮設団地をステーションに加えるなどの工夫も見られた。南三陸町は登米市に,気仙沼市は岩手県一関市に,女川町は石巻市にそれぞれ仮設団地があり,いずれの自治体も越境した仮設団地に移動図書館を巡回させている。また,住民の課題解決支援のひとつとして,法テラスが法律移動相談車両を巡回させる日程とあわせて,移動図書館車を巡回させるなど共同連携の取組も南三陸町で見られた。
 なお,本稿執筆の平成27(2015)年12月現在でも,名取市図書館や南三陸町図書館は位置づけとしては仮設での図書館運営であり,引き続き,本設での図書館復旧に向けた取り組みは続いている。
 
 
 
  参考文献
・宮城県. 宮城県震災復興計画 2011
・熊谷慎一郎「東日本大震災と図書館 : 図書館を支援するかたち」『ライブラリー・リソース・ガイド』6号
・熊谷慎一郎「東日本大震災からの図書館の復旧・復興支援 : 宮城県図書館の役割」『情報管理』54-12,2012.3,797-807頁
・熊谷慎一郎「図書館の役割を問い直す : 東日本大震災の経験から」『日本生涯教育学会年報』33,2012,157-168頁
 
 
 
 
  



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