生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2008(平成20)年4月25日
 
 

癒しと生涯学習 (いやしとしょうがいがくしゅう)

healing in lifelong learning
キーワード : 癒し、個人化、社会化、居場所、集団学習
西村美東士(にしむらみとし)
3.生涯学習の癒し機能
  
 
 
 
  【緊急避難・原点復帰・人的交流】
 生涯学習のもつ癒し機能について、次の3つの側面から整理しておきたい。
(1) エスケープ:緊急避難
 心が傷ついた場合、学習に「埋没」したり、自分を受容してくれる場に「逃避」したりすることによって、当面する問題から一時的に逃れることができる。ただし、この場合、直接的な問題解決にはつながらない。また、多くの場合、たとえその学習方法が集合学習であったとしても、個人内完結型の効果にとどまる。
(2) オリジン:原点復帰
 癒しが「傷ついた心を元に戻すこと」であるとしても、生涯学習の視点からは、その癒し機能は、心が傷ついていない人、あるいは傷ついても癒されたいと思っていない人にとっても重要と考えられる。
 生涯学習においては、ことさら「傷ついたから」ということではなくても、人間のオリジンにふれて癒されたという思いをする機会が多い。本当は人間が持っていなければいけないことについて真剣になって議論する。心の琴線にふれる人やものごととの出会いを体験する。それらのことによって、人間がもともと持っている悲しみや喜びなどの、素朴で素直な人間の原点にふれ、自分自身の懐かしいオリジンに立ち戻ることができる。このような点で、現代社会に生きていて忘れがちな自己の人間としての原点を取り戻し、人間でよかったと思える機会として、生涯学習のもつ癒し機能は重要といえる。
(3) ネットワーク:人的交流
 ホスピタリティ(もてなしの心)が、商業的に提供される一方向の癒し機能であるとすれば、生涯学習の癒し機能は、異質な者同士が、共有する目的のために、対等に交流する中で、双方向のホスピタリティを実現するものということができる。かつて、この観点から、ヒエラルキーやピアと対照して、生涯学習のネットワークがもつ関係性、個人的意味、社会的意味について整理した(添付ファイル表1)。そこでの人的交流は、現代社会において重要な癒し機能を提供すると考えられる。
【個人化と社会化の一体的促進効果】
 以上のことから、癒しは個人としての充実を促進するとともに、社会化プロセスの前提としての効果をもつと考えられる。これによって、個人化と社会化は連動して促進され、自己形成と社会形成の一体化が現実化されるといえよう。したがって、これらの効果を適切に取り入れることによって、生涯学習支援の内容と方法は一段と進歩すると考えることができる。
 そのため、生涯学習支援においては、現代人の癒し願望を、個人化傾向があるからといって直裁に否定するのではなく、かといって、個人化による目標や価値の否定論に迎合するのでもない態度が望まれる。その態度とは、生涯学習が特有にもつ癒し機能を明確化することによって、個人的な癒し願望に対応するとともに、癒しによる個人化と社会化の一体的プロセスにおける達成目標と共有価値を追求しようとする態度である。 添付資料:癒しと生涯学習図表
 
 
 
  参考文献
・西村美東士「ネットワークのつくり方」、赤尾勝巳・山本慶裕編『学びのスタイル−生涯学習入門』、玉川大学出版部、pp.232-252、1996年10月
 
 
 
 
  



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