生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2008(平成20)年4月25日
 
 

癒しと生涯学習 (いやしとしょうがいがくしゅう)

healing in lifelong learning
キーワード : 癒し、個人化、社会化、居場所、集団学習
西村美東士(にしむらみとし)
2.癒しの特徴と効果
 
 
 
 
  【生涯学習における癒しの特徴】
 これまで生涯学習研究において扱われてきた癒しに関連する活動としては、集団学習、地域づくり、居場所づくりなどがある。これらの活動には、癒しグッズなどとは異なる共通の特徴が見出される。
 集団学習においては、ともに語らい、メンバーの一人一人がもっている自然な持ち味にふれ、心と心を通いあわせることになる。開発途上国の若者たちの姿に心を洗われる思いがするのと同じように、日本の青年教育の現場でも、癒される思いをすることが多い。
 地域づくりにおいては、地域の一員として自分ができることはしようとする仲間とともに、共有する目的のために共同の活動を行う。そこには、個人個人が分断された現代社会の一般的状況にはない時間と空間の共有がある。
 青少年の居場所においては、一人一人の「問わず語り」が大切に受け止められ、メンバーの間でも、たがいの意思を尊重しあうようになる。そこには、比べられたり、比べたり、あるいは、仲間に無理に協調したりする青少年の一般的な交友関係とは異なる関係性がある。
 癒し自体はきわめて個人的な事象であるにもかかわらず、生涯学習の癒しにおいては、個人内完結型の癒しグッズなどとは異なる特徴がある。それは、異質を歓迎する対等な人間交流、頼ったり頼られたりする人間関係、そのことによる自己の存在確認という面で共通しているといえる。
【生涯学習における癒しの効果】
 このような生涯学習活動のなかで、学習者は、自他を受容できる自分を見出し、自己決定が迫られ、その決定によって物事が動くということからダイナミズムを感じ、そういう活動を通じて自己成長を自覚し、次のレベルに止揚される。かつて、それらをまとめて、「癒しのサンマ」というものを描いてきた(添付ファイル図1)。生涯学習活動及びその支援は、これまで、このようにして個人と他者、社会を結ぶことによって癒し機能を発揮してきたのだと考えられる。
 佐野市生涯学習都市宣言(平成19(2007)年12月)においては、互いに自分らしさを認めあう「楽習」と、まちづくりへの「参画」が一体的に行われることによる、個人の深まりと市民協働の連動の意義が唱われた(添付ファイル図2)。最近の社会化研究などを見てみると、社会化のプロセスにおいて、たんに自己だけで完結するのではなく、そのなかに他人と関わることや、他人の中に自分を見出すこと、さらには、他人と自己の違いを見つめ直して、自己を深めるという活動のもつ個人化と社会化の一体的な気づき効果が注目される。 添付資料:癒しと生涯学習図表
 
 
 
  参考文献
・『現代青少年に関わる諸問題とその支援理念の変遷−社会化をめぐる青少年問題文献分析』、科学研究費基盤研究C(課題番号17530588)研究成果報告書(研究代表者:西村美東士)、2007年3月
・西村美東士『癒しの生涯学習−ネットワークのあじわい方とはぐくみ方』、学文社、1997年4月初版、1999年3月増補
 
 
 
 
 



『生涯学習研究e事典』の使用にあたっては、必ず使用許諾条件をご参照ください。
<トップページへ戻る
 
       
Copyright(c)2005,日本生涯教育学会.Allrights reserved.