生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2006(平成18)年1月27日
 
 

障がいのある人の理解と学習 (しょうがいのあるひとのりかいとがくしゅう)

comprehension and learning for the person with disabilities
キーワード : ノーマライゼーション(ノーマリゼーション)、障害者基本法、バリアフリー、ユニバーサルデザイン
岡田純一(おかだじゅんいち)
3.障害のある人の生涯学習
  
 
 
 
   昭和45(1970)年に制定された「障害者基本法」は、障害のある人の自立と社会、経済、文化その他あらゆる活動への参加を促進することを目的にしており、そのなかで「国と地方公共団体は、障害者が年齢、能力、障害の種別及び程度に応じ、充分な教育が受けられ、適当な職業に従事でき、文化的な意欲を満たし、レクリエーション活動、スポーツを行うことができるように必要な施策を講じなければならない」と規定しているが、従来、障害のある人に対しては教育ではなく、福祉の対象と見られてきたので、障害のある人の学習は特殊教育(現在の特別支援教育)の取り扱いであった。「学校教育法」に基づき、盲・聾・養護学校は明確に位置づけられ、義務制になっている。
 しかし近年、ノーマライゼーションの考え方の浸透や障害のある人をとりまく新たな課題に直面し、障害のある人の視点に立ち、援助を行う方向へと次第に転化してきている。こうした変化は、障害のある人のための生涯学習支援活動にも現れ、例えば障害のある人が地域のなかで自立し社会参加する礎となる目的で、パソコンや木工などの講座を盲・聾・養護学校で開催したり、障害のある人の理解に向けたコミュニケーション技法の習得、ボランティアを養成するための講座を行ったりするなどの活動がすすめられるようになった。
 また、「ハートビル法」や「交通バリアフリー法」の制定により、障害のある人の学習環境に変化が見られるようになった。公共の教育・学習施設においても、障害のある人を含めて公共性に対する視点が重視され、急速に障害のある人の学習を支援する意識が高まってきた。例えば、図書館が取り組んでいる視覚障害のある人を対象とした各種「ハンディキャップサービス」や、博物館で展示品を触って感じ取ること(hands on)ができるような配慮などが挙げられる。ただし、障害のある人が一人で公共施設を利用するには、まだ困難な場合が多い。それは障害のある人の目線や気持ちと同一の思考に立って障害のある人のための機器の開発をすることの困難に由来する。障害のある人が実際に使用した場合に便利なものとして機能するかという点を考慮しなければならない。結局、付き添い者など、障害のある人を支援する人員の確保が必要な場合が多くなる。しかし、このような取り組みや機器の開発が進めば、障害のある人がひとりで学習を行おうとする意欲を高める援助につながっていくであろう。こうした公共施設における取り組みの広がりは、障害のある人の生涯学習を発展させるうえで不可欠である。
 障害のある人とない人の相互理解が進み、街に出た障害のある人への配慮を健常者が適切に行うことができるようになれば、障害のある人が自信を持ち、自立的に活動できるようになり、人々との交流もできるようになり、学習への動機づけへとつながるであろう。現在は、まだ障害のある人に対する生涯学習の援助は散発的なものが多く、未発達、非組織的、非体系的であり、事業担当者の熱意によって模索しながら行われている段階である。今後、障害のある人の生涯学習を進めるための目的、内容、方法についての研究に力が注がれるべきである。使わない機能は衰えるという廃用性症候群に対する注意が払われるようになったが、障害のある人は使わない機能が生じがちであり、この観点からも障害のある人の生涯学習はきわめて大きな意味を持っている。
*追記:法務省「平成17年度人権教育・啓発に関する年次報告書」(平成18年6月発行予定)では、「障がい者」を「障害のある人」と表記することになっており、本稿においてはこれに倣うこととした。

 
 
 
  参考文献
・稲生勁吾「障害者の生涯学習」小原信・神長勲編『日本の福祉』以文堂、2001年
・岡田純一『教育的効果をもたらす評価の理論と実践』学事出版、2003年
・文部科学省・21世紀の特殊教育の在り方に関する調査研究協力者会議「21世紀の特殊教育の在り方について〜一人一人のニーズに応じた特別な支援の在り方について(最終報告)」、2001年
・生命の星・地球博物館編『ユニバーサル・ミュージアムをめざして ―視覚障害者と博物館―』、1999年
 
 
 
 
  



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