生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2009(平成21)年1月2日
 
 

高齢期の生涯学習政策の動向 (こうれいきのしょうがいがくしゅうせいさくのどうこう)

changing in lifelong learning policies for senior age
キーワード : 第一回高齢者問題世界会議(ウイーン会議)、国際高齢者年、第二回高齢化に関する世界会議(マドリッド会議)、長寿社会対策大綱、ゴールドプラン
塩谷久子(しおたにひさこ)
1.高齢期の生涯学習と政策展開の順序性
  
 
 
 
  【高齢期の生涯学習の持つ力】
 高齢化の進行に伴う社会的問題に対応するために、国連をはじめ多くの国は生涯学習の力に注目するようになった。1985年のユネスコ「学習権宣言」では「学ぶ権利は人類の生存のために欠くことのできない道具である」と主張し、「学ぶ」を問題解決のキーワードであるとしている。さらに「学習という行為は〜中略〜人類を出来事に翻弄されている客体から自らの歴史を創造する主体へと変える」と述べている。学習の持つ力は人間がものごとに対し客体から主体となってかかわることによって自己と周囲を変えてゆく力である。生涯学習によるこの知力の創造によって、社会的な問題を解決することが期待されているのである。高齢社会においては、この知力を開発するのは一般市民はもちろん、高齢者自身にも要請される。
【高学習政策展開における順序性】
 第二次世界大戦後の高齢期の生涯学習政策をみると、国連主導のいくつかの国際会議があった。日本より高齢化の開始が早かったアメリカにおいても高齢期の学習政策への取り組みは、戦後から始まっていた。日本においても、戦後の公民館活動から高齢者の学習はスタートしてきた。この三つのカテゴリーは時代背景の違いなどで若干の時間差があるが、政策展開の順序性には共通点が見られる。
 その最初の段階は、戦後の高齢社会への進行に伴う高齢者問題対策の一環として、生涯学習が取り上げられたことである。当時、無視できない人口集団となりつつあった高齢者層の安寧、幸福を保障するためには、各方面からの諸施策が必要であった。最初の段階は、このような高齢者の増加を年金、医療費などに関する社会的問題と捉え、その問題解決の手段として「教育」の必要性を認識した。現実の問題への積極的な関与と参加により問題解決能力を形成すること、つまり、人々の「知力の形成」が期待されたのである。ユネスコをはじめとする生涯学習の考え方がここで取り入れられ、教育は高齢者問題を解決する鍵として認識された。  
 第二の段階は学習機会の整備である。社会教育、高等教育などの場を高齢者に広く提供することによって、学習参加を促し、自己実現を通して生きがいを支援する方針が採られてきた。海外でも、アメリカのコミュニティ・カレッジやヨーロッパ先進国のU3Aのような高等教育との連携の発展が見られる。日本においても、「長寿社会対策大綱」などの策定により、全国各都道府県に多くの高齢者の学習機会が設置され、高齢者の学習参加は量的に飛躍的な拡大が見られた。
 第三の段階では高齢期を見直すことにより高齢者を社会に有用な存在として共生し、その生産性・プロダクティビティに視点を当てていることである。高齢者を社会の構成員として遇し、学習権を保障し、学習から排除しない方針が貫かれている。依存から自立へと高齢者観を転換し、権利と義務を持つ自立した市民と遇することにより高齢者を含む社会システムへと社会構造そのものをゆるやかに変革しようとする方針である。世界レベルとアメリカでは、学習機会の充実による社会の格差是正へと向かっているが、日本ではこの段階は介護予防のための学習として保健福祉政策に用いられている。
 
 
 
  参考文献
・日本生涯教育学会編『生涯学習事典』東京書籍、1997年、565頁、(伴恒信「ユネスコの主要報告書・勧告・宣言」)
・日本生涯教育学会編『生涯学習事典』東京書籍、1997年、192−193頁、(野島正也、「高齢者教育」)
・日本生涯教育学会編『生涯学習事典』東京書籍、1992年、167頁、(池田秀男「U3A」)
 
 
 
 
  



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