生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2006(平成18)年7月19日
 
 

リカレント教育 (りかれんときょういく)

recurrent education
キーワード : OECD、教育休暇
岸本睦久(きしもとむつひさ)
2.リカレント教育の背景と原則
 
 
 
 
  1) 背景
 リカレント教育はスウェーデンの経済学者レーンRehn, G.によって最初に提唱され、 1968年にベルサイユで開催されたヨーロッパ゚文相会議において、スウェーデンの文部大臣パルメPalme, O.が言及したことにより国際的に注目されるようになった。1970年にはOECDが教育政策会議で初めて取り上げ、以後、本格的にこの概念の調査研究及び普及に取り組むようになった。その最初の主要な成果となった1973年の報告書は文部省により翻訳、公表され、「リカレント教育」という呼称が定着することとなった。
 この報告書は、リカレント教育が要請される背景として、@中途退学者の増大など中等教育の「疾患」の顕在化、A青少年にとっての社会的経験及び青少年による社会的貢献の重要性、B高度な技術を身につけた人材の需給不均衡、C正規の教育制度に対する伝統的な成人教育部門の補完機能の不十分さ、D知識の急速な陳腐化、E世代間の教育機会における不均等の六点を指摘している。20世紀以降の先進諸国においては、教育の機会均等と社会の発展を目指して、中等教育次いで高等教育と教育機会の拡大を図り、青少年期における教育期間を延長してきた。リカレント教育は、こうした方針の下で生じた上記のような矛盾や問題点に対処することを目的として構想された。
2) 原則
 回帰的な方法により教育と他の諸活動を交互に行うリカレント教育を実現するには、従来の教育制度を改めるとともに、労働政策や雇用慣行等の関連分野の変更が不可欠である。リカレント教育を基本とする社会システムのために確立すべき原則として、次の点が挙げられる。
 第一に、学校教育とそれ以外のところで生起する学習活動の補完関係の強化である。これは、学位や修了証を教育上の最終経歴と見なさず、むしろ個人の生涯にわたる成長の一段階としてとらえようとすることである。
 第二に、義務教育の構造や内容の見直しである。義務教育の最後の数年間は、各生徒が義務教育終了後、勉学と労働のいずれかを適切に選択できるカリキュラムを含むべきであり、カリキュラムや指導方法は、生徒や教員、教育行政担当者等の関係者が協力して必要な調整を行わなければならない。
 第三に、教育政策と一般の公共政策、特に労働政策とを調整しなければならない。
 第四に、初等教育から後期中等教育に至る各教育段階に補償教育を導入しなければならない。
 第五に、高等教育における社会人への門戸をより開放しなければならない。
 第六に、計画的な成人教育の機会の拡大である。特に、すべての個人が、できるだけその必要とするところと時期において教育を受けることを可能にするように施設の配置を考慮することが必要である。
 第七に、非伝統的なルートによって得られた学習経験を正当に評価することである。例えば、リカレント教育のシステムにおいては、労働やその他の活動経験も資格付与や入学の基礎要件として見なされなければならない。
 第八に、学校教育において、あらゆるプログラムが別のプログラムに接続するようにしなければならない。
 最後に、大学や職場などにおいて教育と労働を交互に実施できる条件の整備である。このため、各個人は義務教育終了後、育児休暇や教育休暇を取得する権利や、職業的、社会的保障も与えられなければならない。
 
 
 
  参考文献
・文部省大臣官房『リカレント教育―生涯学習のための戦略』昭和49年。
・細谷俊夫、奥田真丈、他編『新教育学大事典』第一法規、平成2年、487-489頁(池田秀男「リカレント・エデュケーション」)。
・Torsten Husén, T. Neville Postlethwaite (Editor-in-Chief), The International Encyclopedia of Education (2nd Edition), Pergamon, 1994, pp.4957-4964.
 
 
 
 
 



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