生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2013(平成25)年12月23日
 
 

キャリア教育のイノベーション (きゃりあきょういくのいのべーしょん)

innovation of career education
キーワード : 企業、相互互恵関係、地域の力、キャリア教育、家庭教育
安部耕作(あべこうさく)
1.滋賀県教育委員会生涯学習課の取り組み
  
 
 
 
   キャリア教育とは、「キャリア」概念に基づき「児童生徒一人一人のキャリア発達を支援し、それぞれにふさわしいキャリアを形成していくために必要な意欲・態度や能力を育てる教育」である。滋賀県教育委員会生涯学習課は、「社会全体で子どもの育ちを支援する」という理念を推進する気運の醸成とその具体化のために、地域の人材や団体だけでなく企業と連携した仕組みを専属スタッフを配置して目に見える形で作る「理念の見える化と具体化」という発想でキャリア教育を含めた学校支援や家庭教育を推進している。
 企業を含めた社会全体で子どもを育てる環境の可視的・具体的な推進を発想したのは、都道府県教育委員会では全国初の民間企業(松下電器産業株式会社)出身の斎藤俊信元滋賀県教育長(平成16(2004)年4月1日〜平成20(2008)年3月31日)である。斎藤元教育長の発想で滋賀県教育委員会生涯学習課は、企業等と連携して子どもを育む「地域の力を学校へ」推進事業、しがふぁみ(滋賀県家庭教育協力企業協定制度)を実施している。企業と連携する際に、学校は企業宣伝に与することを懸念し、教育の公平性や教員の教育のプロという自負が他者の助けを借りることに躊躇するが、教育委員会が率先して企業と連携する姿を学校に見せれば、学校も企業との連携に取り組みやすい。その発想を具体化したのが「地域の力を学校へ」推進事業である。同事業は、学校を支援する意思を持つ地域の人材・団体・企業等の学校支援活動を学校支援メニューとして教育委員会に登録し、登録した学校支援メニューを学校で活用する事業である。学校支援メニューの活用をより推進するために考案されたのが、企業等が教員に学校支援メニューを説明する見本市である学校支援メニューフェアである。学校への普及・啓発を優先課題として、生涯学習課所管の「学校と地域を結ぶコーディネート担当者」研修に加え、学校教育課所管の「総合的な学習の時間」担当教員研修とも連携し、開催されている。教育委員会が率先して企業と連携する姿を学校に見せる「見える化」の一環である。学校支援メニューフェアにおいて、様々な学校支援活動の情報を得、具体的な提案を実際に体験した教員が各職場に持ち帰り、口コミ的に他の教員にも広がることが期待されている。学校支援メニューフェアは企業等から出展料を徴収せず、無料で企業等と学校が出会う場を作るという発想で開催される。学校支援ディレクターは、学校支援メニューを開拓し企業等と学校をつなぐ「具体化」のための専属スタッフとして滋賀県教育委員会生涯学習課に配属されている。連携授業が成立した企業等名と学校名、滋賀県家庭教育協力企業協定締結企業名と締結事業所数は、滋賀県の全幼稚園・小中高等学校等の保護者向け情報誌「教育しが」に毎回掲載される。継続的に企業等と学校の連携授業、家庭教育協力企業数を目にすることで、保護者は社会全体での子育てを実感し、企業等は県の情報誌に企業等名が掲載されることで社会貢献のPRになる。
 このイノベーションの源泉は、斎藤元教育長のキャッチフレーズである「ヨコヨコ、ニコニコ、ドンドン」に集約されている。ヨコヨコは縦割りに陥らず横の連携を広げよう、ニコニコは「近江商人の三方よし」の如く、みんなが笑顔になる仕事をしよう、ドンドンは高い目標に挑戦し、意志決定を早くよい事業は迷わず遂行しよう、を意味している。
 
 
 
  参考文献
・日本経営者団体連盟『新時代の「日本的経営」−挑戦すべき方向とその具体例−』平成7(1995)年
・文部科学省「キャリア教育の推進に関する総合的調査研究協力者会議報告書」平成16(2004)年1月
・中央教育審議会答申「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について」(平成23(2011)年
・文部科学省『小学校キャリア教育の手引き(改訂版)』平成23(2011)年5月
・安部耕作「第13章 変貌する日本的経営とキャリアデザイン」『現代社会と経営』ニシダ出版、平成23(2011)年
 
 
 
 
  



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