生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2008(平成20)年11月10日
 
 

ユネスコの生涯教育論 (ゆねすこのしょうがいきょういくろん)

UNESCO's theory of lifelong education
キーワード : 生涯教育、国際機関、UNESCO
澤野由紀子(さわのゆきこ)
1.UNESCOの役割と成人教育の推進
  
 
 
 
   ユネスコ(正式名称は、国際連合教育科学文化機関;United Nations Educational, Scientific and Cultural Organization。フランスのパリに本部がある。)は、1945年、「国際連合憲章が世界の諸人民に対して人種、性、言語又は宗教の差別なく確認している正義、法の支配、人権及び基本的自由に対する普遍的な尊重を助長するために教育、科学及び文化を通じて諸国民の間の協力を促進することによって、平和及び安全に貢献すること」(「ユネスコ憲章」第1条より)を目的として創設された。「ユネスコ憲章」の前文には「戦争は人の心の中で生れるものであるから、人の心の中に平和のとりでを築かなければならない。」とあり、第二次世界大戦の惨禍を二度と繰り返さないように、教育の分野では、教育を受ける権利を世界中の人々に保障することによって地域間、世代間に広がる教育格差を是正し、社会の民主化を図ることを目指していくこととなった。
 発展途上の国々を多く含むユネスコ加盟諸国には、読み書きのできない成人も多く存在するため、初等中等教育の普及だけでなく、成人の識字率の向上のための成人教育や学校に通うことのできない青少年のための学校外教育の実施についても重視してきた。1965年12月にパリで開催されたユネスコ成人教育推進委員会では、当時ユネスコの成人教育課長であったポール・ラングラン(Paul Lengrand)が、教育を従来のように成人になるための準備としてとらえる考え方を改めて、人間の可能性を導き出す生涯を通じての活動としてとらえる「永続的教育」(l’education permanente)の概念を提唱した。この用語は英語ではlife-long integrated educationやlife-long educationと訳され、日本語では「生涯教育」が定訳となった。
 1960年代後半、先進諸国は戦後の復興を遂げ、経済成長とともに就学率も急上昇した。しかしながら、教育制度は社会の変化への対応に立ち遅れ、若い世代に不満をもたらし、1968年にはアメリカ、フランスに端を発した学生運動が世界各地に飛び火していく事態を招いた。「生涯教育」の考え方は、こうした教育制度の歪みによって生じている様々な問題を解決する上でも有効ではないかと考えられた。その後「生涯教育」をテーマとする国際会議が数多く開かれ、世界各国へ「生涯教育」の考え方が広まっていった。そして、第15回ユネスコ総会において、国連国際教育年の12の課題の一つとして「生涯教育」が採択された。
 国連国際教育年の1970年に、ユネスコは教育制度の根本的改革案を打ち出すことを目的として教育開発国際委員会を発足した。委員長にはフランスの元教育大臣のエドガー・フォール(Edgar Faure)が任命され、教育者、科学者、政治家、国際公務員など世界の著名人6人が委員に選ばれた。教育開発国際委員会は、1960年代から各国で進められていた教育改革の現状を把握するための現地調査や会議を実施し、収集した情報をもとに現代社会の要請に対応した教育制度を構想した。
 
 
 
  参考文献
・ポール・ラングラン著、波多野完治訳 『生涯教育入門』第一部、財団法人全日本社会教育連合会、1990年
 
 
 
 
  



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