生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2008(平成20)年12月30日
 
 

対話としてのアート (たいわとしてのあーと)

art as dialogue
キーワード : 対話としてのアート、コミュニケーション、アメリア・アレナス、対話による鑑賞、鑑賞教育
畔柳和枝(くろやなぎかずえ)
1.対話としてのアート −アレナスの対話による鑑賞−
  
 
 
 
   アートは、美の表現活動として個人の芸術性を追及するものと、作品との関わりを通して知的発達と人間形成へと導くものという異なった概念を持つ。
 対話としてのアートは後者の概念のもと、アートを作品と鑑賞者との間に生ずる「コミュニケーション」として捉え、鑑賞者は作品と豊かなコミュニケーションを図ることで、自己や他者、社会と深く向き合うと同時に理解することの重要性を学ぶのである。
 また、アートが生まれるためには、何よりも鑑賞者の存在が重要になる。なぜなら、コミュニケーションに達成という概念がないように、コミュニケーションを重ねれば重ねるほど人は更なるコミュニケーションへと誘われ、そのプロセスの中でのみアートを生み出すことができるからである。ここでいうコミュニケーションとは、作品を通して物事の本質を見ること、思考すること、それを他者に表現することを意味する。
 このように鑑賞行為に人間の価値や知の創出を求める概念は、ニューヨーク近代美術館と認知心理学者のハウゼン(Housen,A.)によって開発されたビジュアル・シンキング・カリキュラム、通称VTC(1980年)にルーツを持つ。VTCは広義の意味での教育や人間形成に役立つという目的のもと、1991年から5年間に渡りニューヨークの小学校で実践され体系化された鑑賞教育プログラムであり、児童の創造的思考力の発達に留まらず、学力と社会的スキルの向上を達成したことで、他の学問分野と同等の学習効果を持つことを証明した。
 VTCの理論を発展させ、幅広い鑑賞者を対象に開発されたアレナス(Arenas,A.)の対話による鑑賞(1998年)は、グループでのディスカッションを基本とした鑑賞法で、アメリカやヨーロッパの美術館、教育施設などで実践されている。日本では豊田市美術館、川村記念美術館、水戸芸術現代美術センターの「なぜ、これがアートなの?」展(平成10-11(1998-99)年)において実践され、その理論と実践方法は日本の美術館の在り方だけでなく、学校教育(特に「総合的な学習の時間」の進め方)にも大きな影響を与えた。
 また平成16(2004)年には、京都造形芸術大学の鑑賞者調査分析プロジェクトにより、対話による鑑賞の人間に与える影響力について、日本で最初の調査が行われた。
 今後、日本で対話による鑑賞の認知度を高め、その有効性を証明するためには、多様な被験者や施設での実践を継続的に行うことや、日本人固有の民族性や文化に適した実践方法を探求していくなど、さまざまな課題が残されている。
 
 
 
  参考文献
・並木誠士『現代美術館学』昭和堂、1998年
・山木朝彦『美術鑑賞宣言−学校+美術館』日本文教出版、2003年
・アメリア・アレナス著・福のり子訳『なぜ、これがアートなの?』淡交社、1998年
 
 
 
 
  



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