登録/更新年月日:2008(平成20)年12月30日 |
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対話による鑑賞の特徴のひとつは、美術の知識を必要とせず、対話の中で生じる鑑賞者の自由な発想を重視していることである。スライドで投影された作品を長い時間(最低でも一時間以上を費やす)をかけて、自分の目で見て思考し、自分の言葉で語る鑑賞法は、専門的な情報の有無とは関わりのない鑑賞が可能であることの証明でもある。 二つ目の特徴は、決められたルールや教材を用いないことによって、鑑賞者層と実践の場の幅が広がることと、鑑賞者のさまざまな価値観が受け入れられることにより、開放的な環境の中でアート作品に接することが可能となる。 三つ目は、ナビゲーターの存在によって、作品と鑑賞者との間により密接なコミュニケーションを確立し、さらにはグループによるディスカッションが円滑に進められていくことである。ナビゲーターは鑑賞者の言葉を丁寧に拾い上げ、どのような意見も否定せず、新たな言葉を引き出すように導いていく。自由に感じたことを率直に伝えることは、既存の価値観や知識による見方を解体し、さまざまなイメージや考え方が共存することで、作品の中から多様なメッセージを見つけることができる。 このような鑑賞法を重ねていくうちに、鑑賞者の自己と他者との関係や自己のあり方に対する考え方に変化が生じてくる。その変化とは、グループで鑑賞することによって生じる「気づき」であり、人間としての根底的な部分の変化である。 鑑賞者の多くは、ひとつの作品をグループで共有しながらも、個人の過去の経験や価値観から作品の意味を求めようと試みる。しかし他者とのコミュニケーションを通して、作品から読み取っているものが個々に違うことや、客観的と思っていた自分の視点がいかに主観的で相対的なものであるかに気づかされる。この気づきは鑑賞者を作品から自己の内面へと向かわせ、やがて他人との関係にも向けられるようになる。これは、対話による鑑賞のプロセス(1自由な感覚の中で作品の意味を解体する、2それを伝え、受け入れる、3その中から更に意味を作り出す)を通してのみ体験する気づきであると同時に、鑑賞者自身が単なるものとしての「アート作品」を「アート」へと転換したことの現われでもある。 対話による鑑賞法のように雰囲気で作品を捉え、理由をもって作品を理解・解釈をすることは決して容易ではない。しかし、知識を蓄積することよりも知識を活用する楽しさを感じ、人々のさまざまな解釈に心を開き、受け止めることができた時、鑑賞教育が多くの人々にとって、より一層豊かで深遠なものとして受け止められるに違いない。 br> |
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参考文献 ・アメリア・アレナス著・木下哲夫訳『みる・かんがえる・はなす』淡交社、1998年 ・福のり子編『2007年度ACOP・鑑賞者研究プロジェクト報告書』京都造形芸術大学アートコミュニケーション研究センター、2008年 |
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