登録/更新年月日:2008(平成20)年1月1日 |
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イギリスにおいては、義務教育相当の基礎学力を身に付けたら直ちに「手に職」を身に付けるタイプの教育機会ばかりでなく、上級の教育・職業能力開発の機会に進むための学習機会が、成人に対しても設けられている。イギリスの高等教育機関入学者選考は、基本的に学力審査と面接による。一般の受験者は、共通試験(イングランド・ウェールズ・北アイルランドでは基本的に同じ枠組みだが、スコットランドは別方式)を通常受け、その評定段階が判定対象になる。一方、成人や留学生は、いわゆる予科にあたる課程でまず学び、その成績が判定対象として使用される場合が多くなる。成人対象の課程は、高等教育進学準備課程(Access to HE Programmes)と総称される(ここでHEとはhigher education (高等教育)の略語)。したがって、社会人経験や人生経験をもとに大学等に入学枠を設けるのではなく、ある程度の基礎固めをした上で上級の教育・職業能力開発に進んでいく方式である。 イギリスでは、たしかにキャリア教育と職業能力開発が、内容の不十分さを指摘されつつも量的には大きく展開している。ところが、成人たちは低い水準の知識・技能のままに止まりがちであり、職に就けたとしても不利な労働条件のもとで働くことを余儀なくされることも多い。 イギリス連合王国において全人口の約8割を占め面積も半分を超えるイングランドでは、ブレア政権下において、若年者への施策が優先されていた。その政策推進上も日本で高等学校卒業レベルに相当する「全国資格枠組み」水準3においては、若年者への施策が政府主導で推進される一方で、成人向け施策に関しては、財源的にも限られた地方任せもしくは学習者自身の場合がほとんどとなる受益者負担となっていた。まさに成人向け大学等高等教育機関進学準備課程は、この中央政府の推進政策から抜け落ちていた。そのため、高等教育進学準備課程の取り組み自体を維持することさえ困難となってしまっていた。とはいえ、2007年6月ブラウン政権となってからは、そのような若年者と成人との区分は撤廃となった。同じ労働党内の政権交代でありながら、大きな政策方針の転換である。今後の動向が注目される。 一方、スコットランドは、人口で約1割の約500万人にとどまるとはいえ歴史的経緯に基づく自治のもとでの別制度であって、手厚い就学支援政策が継続されてきた。手厚い就学支援政策は、重厚長大産業からの構造転換がうまくいかず経済不振の中でも、高い税金・国民負担を前提としつつ継続されている。その背景には、中等教育修了水準の職業能力を獲得してもなかなか安定した就職ができにくいため、まずは大学等の高等教育機関に進学しておこうという傾向が強く、イングランド以上に進学率が高くなっていることがある。そのような状況の下、成人に対してもキャリアを切り開く基礎となる普通学力を身に付けることで高等教育進学にも対応できるような高等教育進学準備課程(Access to HE Programmes)が通学制および全寮制として取り組みがされてきた。その実践現場の一つが、今回取りあげるニューバトル・アビー・カレッジ(Newbattle Abbey College)である。 br> |
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参考文献 ・柳田雅明「イギリスにおける成人向け大学等進学準備課程の再検討 -自立支援政策との関連を焦点に-」『日本生涯教育学会論集』28、2007 ・柳田雅明「イギリス(イングランド)における成人学習公共管理システムの転換」『教育制度学研究』13、2006 ・柳田雅明「イギリス・スコットランドにおける成人学習・能力開発支援実践 -ニューバトル・アビー・カレッジの事例-」『産業教育学研究』36-2、2006 |
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