生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2007(平成19)年3月15日
 
 

公民館主事 (こうみんかんしゅじ)

citizens’ public hall officers (Kominkan officers)
キーワード : 公民館、公民館職員、公民館主事、主事、吏員
坂本登(さかもとのぼる)
1.定義
  
 
 
 
   公民館主事は,法に定められた資格でも職でもない。公民館主事とは,社会教育法の第27条において「公民館に館長を置き,主事その他必要な職員を置くことができる。」と規定されている,「主事」の通称なのである。
 ごく一部の市町村ではあるが,公民館条例等によって,公民館主事の設置を規定している例が見られる。地方公共団体が制定する条例も法令を構成する一部である。しかし,それは,国会が制定する法律,内閣が制定する政令,大臣が発する省令などと違い,地域限定的なものに過ぎない。したがって,市町村の条例をもって,公民館主事の法的根拠がある,と断じることはできない。
 なお,地方自治法は,「普通地方公共団体に吏員その他の職員を置く。」(第172条)ことを義務付け,この任免を普通公共団体の長の任としている。普通地方公共団体である市町村は,これらの任免や職種などに関する規則などを定め,吏員のうちの事務吏員(吏員は,事務吏員と技術吏員に分けられる〈同法173条〉。)の中から,補職の形で「主事」を任命している。この「主事」が行政職員であるのに対し,「公民館の主事」は,教育機関の職員ということになる。この両者を区別する意味で,便宜的に,公民館の主事は「公民館主事」と呼ばれている。
 公民館と並び,社会教育の主要施設といわれ教育機関である図書館,博物館には専門職員としての司書,学芸員の設置が法律で義務付けられ,かつ,司書,学芸員の職務,資格などの法規定が整備されている。しかし,公民館主事は通称として広く普及しているものの,法的にはいまだ市民権を得るに至っていない。その理由としては,次の三点が挙げられよう。ひとつは既述したように法的根拠が希薄であること,二つ目は公民館がわが国独自の施設であるためモデルを他の国に求めることができなかったこと,三つ目の理由は公民館の歴史,すなわち,いわゆる「寺中構想」に秘められていること,である。
 寺中作雄は『公民館の建設』で,公民館を,住民の自治を体現するものとして構想し,その運営主体として,公選制(ただし,地域の事情を勘案し,選挙によらない選出も容認している。)による公民館委員会の設置を提唱した。この公民館委員会が担う役割として例示されたのは,公民館職員の選考,事業計画,講師招聘の斡旋,施設設備計画,経費調達,当局との折衝,各種団体間の連絡調整など,公民館運営の重要事項に関することである。同構想はまた,「公民館には専任職員を置くこととし,主事と呼ぶ。」ことを提案する一方で,この主事について,経費の関係(市町村の財政事情)によって,兼務や嘱託などで設置する方途もあることを示唆している。
 寺中構想は,公民館の振興に絶大なる貢献があった。しかし,こと,公民館の専任主事の設置とその身分や職務等に関していえば,同構想は,こんにちまでそれらをあいまいにし,充実を阻害する要因ともなった。すなわち,寺中構想に示された公民館委員会の役割とその活動の活発化は公民館の主事の必要性を低下させ,財政事情によって兼務や嘱託の主事でも可とする公民館職員の設置に関する考え方は,市町村の人事や財政当局に,専任の主事を設置しない口実を与えたのである。

 
 
 
  参考文献
・寺中作雄『公民館の建設−新しい町村の文化施設』公民館協会,昭和21年
・湯上・加藤・坂本『公民館全書』東京書籍,1989年
・湯上二郎監修『公民館経営ハンドブック1』日常出版,1977年
 
 
 
 
  



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