生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2009(平成21)年1月2日
 
 

高齢期の生涯学習政策の動向 (こうれいきのしょうがいがくしゅうせいさくのどうこう)

changing in lifelong learning policies for senior age
キーワード : 第一回高齢者問題世界会議(ウイーン会議)、国際高齢者年、第二回高齢化に関する世界会議(マドリッド会議)、長寿社会対策大綱、ゴールドプラン
塩谷久子(しおたにひさこ)
3.高齢期の生涯学習政策の課題
  
 
 
 
   国連、アメリカ、日本とも最初の共通の基本的認識は生涯学習による知力の開発であるが、展開していくうちにいくつかの課題を抱えることになった。 
 第一の課題は、国連、アメリカ、日本の三つのカテゴリーで共通なのであるが、高齢者を学習によりエンパワーするという視点について、エンパワーの理解の問題である。アクティブ・エイジング、ヤングオールドなどの言葉で高齢者を活性化しようというのが政策の基本目標にある。しかし、高齢者のエンパワーとは成人と同じ力を維持することであろうか。高齢期は30年以上の長いスパンであり、対象となる高齢者のあり様は多様である。体力の衰えを認めつつ高齢者の能力に応じたあり方を考える必要がある。これは、社会全体の価値観を高齢者に合わせて緩やかに変えることにつながるのではないだろうか。
 第二に、最近の高齢者政策は、プロダクティビティに重点を置いていることである。しかし、学習の成果もまた多様である。生産性にばかり注目しては、本質的な学習の効果を見落とす恐れがある。学習の成果は、個人の内面的成長、身につけた知識や知恵を社会に伝える、地域社会へ貢献するなど、直接経済的な生産性につながらないが、文化的・社会的に多面的である点を評価することが必要である。さらに、生産性にこだわることは非生産的な人々、つまり、病弱な人、認知症を持つ人々などの価値を認めず隅に追いやることになりかねない。
 第三に日本における介護予防への傾斜である。高齢者を対象とする学習機会では、寝たきり予防、転倒予防教室、介護教室などの健康生活志向が圧倒的に多い。高齢期の学習を高齢期のエンパワメントの手段として、重要な社会福祉政策として支援する状況は好ましいことであるが、医療費の抑制、要介護状態の予防のように、経済面でのみ考慮する現状は偏りすぎていないだろうか。これでは高齢者全体を対象とする学習支援政策は保健・医療・福祉の周辺的位置づけでしかない。特に、近年は高齢期の学習は介護予防面のみに大きくシフトしており、問題解決能力や知力の開発という視点がほとんどないのが現状である。
 第四に教育政策の対象者の拡大である。近年の要介護認定者数は約450万人程度であり、高齢者人口の17%前後に過ぎない。つまり、介護を必要としない元気な高齢者数が8割強である。この約8割を占める多くの比較的元気な高齢者は、かつて、歴史上に存在しなかった年齢集団である。そのため、政策決定者にはこの高齢者集団を教育支援の必要な市民として捉える視点に欠けており、それらの人々に対しての学習支援は決して十分であるとはいえない。また、高齢期には必ず、他者に依存する時期があるのだが、その場合の介護・医療の支援の確保はあるが、学習への支援はほとんどないのが現状である。弱者への学習保障も今後の重要な課題であろう。
 
 
 
  参考文献
 
 
 
 
  



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