生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2006(平成18)年1月27日
 
 

博物館法 (はくぶつかんほう)

Museum Law
キーワード : アメリカ教育使節団、社会教育法、博物館の定義、登録制度、学芸員制度
大堀哲(おおぼりてつ)
1.博物館法制定の背景
  
 
 
 
   博物館法が昭和26(1951)年12月1日に制定されたが、この法律制定の背景には、連合軍総司令部(GHQ)の教育行政に関する考え方の基礎となったアメリカ教育使節団のレポートと社会教育法の制定等がある。
 敗戦後のわが国は、教育の面でも日本再建のために民主主義、平和主義に徹した新しい教育制度にすべきという観点から改革が断行された。そのもとになったのがアメリカ教育使節団のレポートである。ここでは成人教育振興に関して図書館、博物館の整備や市民に開放された施設として充実すべきことなどが指摘された。 
 また昭和22(1947)年に制定された教育基本法で、博物館がわが国法制上初めて教育施設として位置づけられたのをうけて、昭和24(1949)年に社会教育法が制定された。その第9条に博物館が社会教育のための機関と規定された。これが博物館法立法の根拠になるとともに、その第二項に「・・・博物館に関し必要な事項は、別に法律をもって定める」と特別立法のことを規定し、博物館法制定の意志を表した。
 博物館法制定の背景には以上の2点があるが、これに加えて博物館経営が窮乏状況にあったことも博物館法制定に拍車をかけたといえよう。
 次に博物館法制定上の問題点を2つに絞って触れておきたい。
 その一つは「動物園・植物園・水族館の取扱い」である。博物館法制定の前年の昭和25(1950)年に、博物館の法的な基礎づくりのために設けられた(社)日本博物館協会の「博物館懇話会」において、動物園、植物園、水族館を博物館の範疇に含めることは問題があるのではないか、という意見があった。しかし、従前の貴重な資料の保管、展観中心の静的な博物館から、人々の興味関心を踏まえ、動的、自主的な教育活動をとおして地域に開かれた博物館へ転換していく必要があるとの観点から、博物館の概念にはなじまないとされてきた動物園等を、法律上の博物館の概念に含めて規定することになった。当時博物館界から、国、公、私立の博物館を対象に、総合的な法体系の整備を図ってほしいという強い要望があった。しかし、国立博物館は各省にあり、その領界を各省の設置法に基づいて行っているため、それを文部省(当時)所管とすることは困難であること、公私立博物館とは差が大きいことから同一の法律に含めることは難しいとされた。
 そして何よりも問題なのは、法制定の前年に文化財保護法が制定され、わが国の代表的な東京国立博物館が文化財保護委員会所管となって、文化財保護行政上の重要な役割を担うことになり、博物館法上の対象から除外されたことである。博物館立法上の重要な柱の一つであった国立の博物館が法律上の観念として博物館相当施設になったことは、国立博物館の果たすべき国民サービス向上の観点から大きな課題を今日に残したといえる。
 
 
 
  参考文献
・大堀哲『博物館法』(季刊教育法、110)エイデル研究所、1999年
・大堀哲編著『博物館概論』樹村房、1999年
 
 
 
 
  



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