生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2008(平成20)年12月24日
 
 

大正期における民間の学習活動 (たいしょうきにおけるみんかんのがくしゅうかつどう)

private activities of learning in the Taisho Era
キーワード : 社会運動、セツルメント、夏期大学、自由大学、新中間層
久井英輔(ひさいえいすけ)
2.都市新中間層と学習活動
 
 
 
 
  【「知識階級」としての都市新中間層】
 明治末期から大正期にかけ,官公吏,会社員,教員等の俸給生活者,あるいは専門・技術職等とその家族からなる新中間層が都市部で拡大する。江戸期から比較的持続してきた都市部の生活様式がこの時期に断絶的に変容するのも、都市新中間層の拡大によるところが大きかった。都市新中間層拡大の背景には,近代的産業セクターの拡大とともに、この階層の拡大・再生産を支える教育制度が整備され、中等・高等教育が新中間層による世代間での社会的地位の継承のためのルートとしての機能を担うようになったこととも関わっている。
 従って,新中間層は,中等・高等教育を通じて学校的・近代的な知、すなわち文化・教養活動への親和性が比較的高い人々でもあり、個別の教養文化活動(読書など)、講習会・講演会などの学習機会への関心の高さという点でも、注目される。当時、新中間層がしばしば「知識階級」「読書階級」などと呼ばれたのも、このことを背景としていた。
【都市新中間層と民間の生活改善事業】
 都市新中間層は、個別的な家庭生活様式を営み、共同体的な人間関係との結びつきの少なさを特徴とし、生活に関わる規範・知識についても共同体を基盤とした伝達形態から比較的離脱していた。従って、生活に関する知識についても、マスメディアや専門家の提示する知識への依存度が高かった。他方、そのような知識階級としての新中間層が国民の中軸的存在として期待されているにもかかわらず、第一次世界大戦後の不況により、著しい生活困窮に陥っていた。このような都市中間層の特性、および生活実態と結びついてこの時期に注目されたのが、生活改善に関わる事業であった。
 この時期の生活改善運動としては、文部省の外郭団体・生活改善同盟会(1920年発足)による講習会、展覧会などの事業が有名であるが、それ以外の民間団体による生活改善事業の展開も見られた。例えば、消費経済学者・森本厚吉は、文化生活研究会(1920年設立)を拠点として、講義録『文化生活研究』による通信教育事業により、家庭経済学、衛生学、住宅論、育児法、宗教論、文学論など、生活改善に関連した広範な領域の知識普及に取り組んだ。この通信教育事業の主対象は、高等女学校卒程度の学歴を持った、都市新中間層の主婦が想定されていた。森本は、模範的な文化的生活を都市新中間層が営むことにより、「上流階級」「労働者階級」を主導して穏健な社会改革を進めていくことを構想していた。
 この森本の「文化生活運動」の取り組みは短期間のうちに終わったが、当時の都市新中間層の「知識階級」としての当時の捉えら方を如実に示す一つの事例として注目される。

 
 
 
  参考文献
・鈴木眞理「昭和初期における都市住民の教養・文化活動」『社会教育学・図書館学研究』2号、1978年
・中嶌邦「大正期における「生活改善運動」」『史艸』第15号、1974年
・寺出浩司「森本厚吉と文化普及会」川添登・山岡義典編『日本の企業家と社会文化事業 −大正期のフィランソロピー−』東洋経済新報社、1987年
・小山静子『家庭の生成と女性の国民化』勁草書房、1999年
 
 
 
 
 



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