登録/更新年月日:2006(平成18)年1月27日 |
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ペダゴジイとアンドラゴジイの両モデルの間には、そのような対極的な違いがあり、後者は前者とは異なるモデルの構築を目指して体系化されているが、それを支えている論拠は何であり、またその構築によって何を達成しようとしているのか。 ペダゴジイは古代以来の長年にわたる思弁的及び経験的研究の積み重ねがあり、20世紀にはいって以後はこれに科学的研究が加わった。これに対してアンドラゴジイはその前史を含めても母体となる理論の体系化までの歴史が浅く、かつノールズ以前に蓄積された研究成果は皆無にちかいような状態であった。そのために彼がその構築を目指して取り組んだ当初には、その成果を取りまとめて発表したり論文にするさいに、自分のやっていることにどんな名称をつけどう呼んだらよいかわからなかったとノールズは述べている。 そのような状況のなかで彼のアンドラゴジイ構築への発端となったのは、地域社会における教育実践であった。すなわち、子どもと青年や成人の教育は同一の理論や技術では対応できないのではないかという疑問であった。こういった問題意識のもとに彼自身の現場経験と関係者の意見に基づいて学習者としての「大人」にマッチした教育技術を探求する基礎作業としてその特性の構造化にあたった。その成果は学習者としての「大人の自己概念」「経験の位置づけと役割」「学習へのレデイネス」及び「学習へのパースぺクテイブと志向性」という四次元に構造化され、それらの特性を生かした学習支援の基本形として彼は「学習の雰囲気作り」から「相互的計画化」「学習ニーズの診断」「学習目標の公式化」「学習活動のデザイン」「学習活動の実施」及び「学習成果の共同評価」までの7段階から構成されるアンドラゴジイ実践のプロセス・モデルを公式化した。この関連で前者はプログラム策定のエレメントと呼ばれている。 さらに彼は、一方で人間の成長・発達の主体的な筋道を先行研究に基ずいて追求し、子どもから大人への成熟の諸次元として、依存性から自律性へ、受動性から能動性へ、主観性から客観性へ、狭い関心から広い関心へ、利己性から利他性へ、模倣性から独創性へなど15次元を構造化し、他方で急激な変化に対処するための学習の要請を勘案しながら、現代の成人教育実践の指導原理として「自己主導的学習(self-directed learning)」への支援を設定している。これはアンドラゴジイとしても重要な部分であるが、これとは独立に取り扱うべき重要なもう1つの研究主題なので、ここでは立ち入らないことにした。 以上は、ノールズが構築したアンドラゴジイを基礎づけた前提と原理の主要部分を図式的に素描したものである。我が国の生涯学習研究におけるこの方面の学問研究の手薄さに思いを馳せるとき、こうしたペダゴジイとアンドラゴジイの両モデルへのパラレルなアプローチは、生涯学習支援技術論の充実と進化に向けて避けて通ることのできない道だといってよいように思われる。 br> |
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参考文献 ・マルカム・ノールズ(堀薫夫・三輪建二監訳)『成人教育の現代的実践―ペダゴジーからアンドラゴジーへ―』鳳書房、2002. ・マルカム・ノールズ(渡辺洋子監訳)『学習者と教育者のための自己主導型学習ガイド―ともに創る学習のすすめ―』明石書房、2005. ・Conner, M. L. Andragogy and Pedagogy, http://agelesslearner.com/intros/andragogy. Html 2005. |
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