生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2006(平成18)年1月27日
 
 

ペダゴジイとアンドラゴジイ (ぺだごじいとあんどらごじい)

Pedagogy and Andragogy
キーワード : 教育学、子どもの教育、大人の教育、ノールズ、自己主導的学習
池田秀男(いけだひでお)
2.ペダゴジイ・モデルとアンドラゴジイ・モデルの定義と対極的な構造
 
 
 
 
   その中でノールズは、「ペダゴジイ」とは、ギリシャ語の「子ども」を意味するpaid と「指導」を意味するagogusの合成語から成る言葉で、「子どもを教育する技術と科学(the art and science of teaching children )」のことだと定義し、「アンドラゴジイ(andragogy)」とはギリシャ語の「大人」を意味するanerと「指導」を意味するagogusの合成語で、「大人が学習するのを援助する技術と科学(the art and science of helping adults learn)」のことであると説明している。両者に共通する理論枠組は教育技術論であり、これを前提として、一方は子どもを教育する技術論として規定され、他方は大人の学習援助論として公式化されているのが特徴である。この関連で、ペダゴジイでは子どもは教育の対象として位置づけられ、アンドラゴジイでは大人は学習主体として位置づけられていることが注目される。その当然の帰結として前者の教育活動では、この定義の中に文言としては明示されていないけれども、指導者ないし教師が主導的役割を果たすことが想定され、後者では指導者ないし教師は学習の支援者としての役割が担わされ、学習者自身が学習の主導的役割を担うことが期待されている。
 このように見てくると、両モデルはきわめて対極的な性格をもつものとして捉えられており、子どもを対象とする教師主導の教授論を中核とするペダゴジイしか存在しなかった教育研究の世界に、大人を学習の主体とし学習者主導の学習支援を中核とするアンドラゴジイという全く新しい発想に基ずく教育理論の登場は、この分野の理論枠組、すなわち教育事象を捉えるパラダイムの一大転換の契機を開くほど重大な意味を内包するものであった。しかしその意味や価値が関係者に理解され教育の研究と実践の世界に浸透されるには、それ以後今日に至るまでの長い時間を必要とした。そうした状況にもかかわらず、新たな発展段階の生涯学習に対応するための成人教育学研究への要請もあって今世紀に入って以後、アンドラゴジイの価値は改めて見直されるようになり、例えばノールズの今や古典的価値をもつ上述の著書『成人教育の現代的実践』やその実践的ガイドブックとも言うべき『自己主導型学習―学習者と教師へのガイド―』なども訳出され、関係者の関心を集めている。その結果、今日では、これまで長い間無自覚のまま、ペダゴジイ・モデルを子どもと大人の両方に用いてきた矛盾や問題が反省され、両モデルの対極的な構造を前提とする新しいパラダイムに立脚した相互補完的なアプローチが模索されるような環境が醸成されてきている。
 
 
 
  参考文献
・マルカム・ノールズ(堀 薫夫・三輪建二監訳『成人教育の現代的実践―ペダゴジーからアンドラゴジーへ―』鳳書房、2002.
・マルカム・ノールズ(渡辺洋子監訳)『学習者と教育者のための自己主導型学習ガイド―共に創る学習のすすめ―』明石書房、2005.
・Conner, M.L., Andragogy and Pedagogy, http://agelesslearner.com/intros/andragogy.html, 2005.
 
 
 
 
 



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