生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2006(平成18)年1月27日
 
 

フォーマルエデュケーション、インフォーマルエデュケーション、ノンフォーマルエデュケーション (ふぉーまるえでゅけーしょん、いんふぉまるえでゅけーしょん、のんふぉーまるえでゅけーしょん)

formal education, informal education, nonformal education
キーワード : 無意図的教育、意図的教育、P.H.クームス
渋谷英章(しぶやひであき)
2.インフォーマルエデュケーション
 
 
 
 
  【定義1】
 あらゆる人々が、日常的経験や環境との触れ合いから、知識、技術、態度、識見を獲得し蓄積する、生涯にわたる過程。組織的、体系的教育ではなく、習俗的、無意図的な教育機能である。具体的には、家庭、職場、遊びの場で学ぶ、家族や友人の手本や態度から学ぶ、ラジオの聴取、映画・テレビの視聴を通じて学ぶなどがあげられる。
【意義1】
 インフォーマルエデュケーションにあたる無意図的教育は、人類が誕生したときから存在する教育の形態である。意図的教育の起源とされる入社式が始められる前、あるいは入社式の存在しない部族社会においては、人間はこの教育形態によって人間としての諸能力を獲得していた。強制や意図的計画なしに、成人たちの生活を見たり、まねをしたりしていくうちに、自然にその成人社会で行われている生活の技術・慣習・秩序・道徳などに同化していくこの作用は、機能的教育とも呼ばれる。
 ところが、その後の社会の階層分化にともない、支配層は組織的教育を受けるのに対し、奴隷と従属民には無意図的教育だけが残されるという教育の分化が生じ、この分化は19世紀の中ごろまで続いた。この無意図的教育の特徴の一つは、その内容が必然的に個々の人間の経験の範囲に限定されることである。中世の農奴のように、一つの土地に定着し新しい環境に順応するための工夫が必要なく、支配者の命令に服従して、祖先と同じ農耕方法を用いるだけの生活では、思考の停滞、知性の退化が支配的であったことが指摘されている。このような歴史的経緯から、無意図的教育は組織的教育の機会を奪われた非支配層にとって唯一の教育形態であり、これだけでは無知な教育を再生産するだけであると考えられてきていた。そしてこの無意図的教育に対する否定的見解によって、教育の機会均等の実現、教育を受ける権利の保障は、すべての人間に学校教育の機会を提供することによって達成されるという「学校信仰」が支えられてきていた。
 ところで、教育は学校のみで行われるのではなく、教育を学習と同義にとらえるという、1970年代にみられる教育観の転換を背景に、インフォーマルエデュケーションという語が登場してきた。無意図的な教育ではあるものの、インフォーマルエデュケーションは、たとえ非常に「学校化」された人にとっても、人々の生涯にわたる学習のうちの大きな部分を占め、その影響力は大きい。フォーマル、インフォーマル、ノンフォーマルという教育領域の一つとして、この教育の重要性をとらえなおし、他の領域の教育と統合させて、生涯学習体系を構築していくことが必要とされてきている。
【定義2】
 1960年代以降に注目された、オープン・エデュケーション、フリー・スクールなどの伝統的学校教育に対する改革運動で提唱された教育形態。
【意義2】
 現実の生活から切り離された、画一的な内容を、すべての子どもに一斉に教授するという従来の学校教育の形態を排し、子どもを生活者としてとらえ、家庭や地域との関係を重視し、子どもの自発性を尊重してその興味・関心に基づいて学習プログラムを構成する。生涯学習社会における学校教育の一つのあり方を示唆している。
 
 
 
  参考文献
・ 梅根悟『世界教育史』新評論、1962年
・P. H. Coombs & Manzoor Ahmed, Attacking Rural Poverty −How Nonformal Education Can Help, Johns Hopkins University Press, 1974 
 
 
 
 
 



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