生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2009(平成21)年9月6日
 
 

研究課題・今後の生涯学習政策の方向と課題 (けんきゅうかだい・こんごのしょうがいがくしゅうせいさくのほうこうとかだい)

future direction and tasks of lifelong learning policy in the new era
キーワード : 知識社会、少子高齢社会、イノベーション、職業教育、生涯学習支援システム
浅井経子(あさいきょうこ)
3.新しい時代に向けての生涯学習政策の方向と課題
  
 
 
 
   それでは今後の生涯学習政策の具体的な方向について考えてみよう(添付資料の図2)。
 社会の要請を受け、生涯学習支援・推進では国際競争力を有した人材養成が、社会教育にあっては、新たな地域づくりを可能にする自立した市民の育成、学習成果を生かした市民参画の支援が重要な課題になろう。ここでは具体的な課題として次の5点をあげる。
【新たな観点からの人材育成】
 知識社会型の職業能力向上のために、生涯学習政策でもイノベーションの促進に積極的に取り組むことがあげられる。ちなみに平成19(2007)年に閣議決定した『イノベーション25』は、「どのような人を、どのように育てていくのかにイノベーション政策の基本がある」として、「イノベーションとは、技術の革新にとどまらず、これまでとは全く違った新たな考え方、仕組みを取り入れて、新たな価値を生み出し、社会的に大きな変化を起こすことである。このためには、従来の発想、仕組みの延長線上での取組では不十分であるとともに、基盤となる人の能力が最大限に発揮できる環境づくりが最も大切であるといっても過言ではない」と述べている。
 それを可能ならしめるのは人間であるので、そのような人間の育成は生涯学習政策の一環に位置づけることができるのではないであろうか。今後、生涯学習政策の中でも、イノベーションとの関係で学習機会の提供等に取り組んではどうであろうか。
【地域経済の活性化に向けて】
 「新しい地域づくり」と「知識社会への対応」は、地域経済の活性化の面で関係がある。『経済財政改革の基本方針2008』でも、人口減少時代に成長を促すために、すべての人材の能力を最大限に引き出すこと、地域の活性化によって地域の雇用と活用を増やすことの必要をあげている。
 「地域経済の活性化」については、社会教育行政以外の領域に委ねられているが、就労支援に取り組む公共図書館がみられるように、今後は社会教育行政にあっても職業能力の育成を通して関わらざるを得なくなると思われる。
 例えば、今後は図書館や博物館、高専、大学・短大、専門学校、研究機関等とが連携して、個人や地域の自立支援に取り組む「知の連合体」づくりを検討してはどうであろうか。
【連合体同士のネットワーク化】
 地域にはコンソーシアム等の連合体はつくられてきたが、連合体同士のネットワーク形成についてはあまり検討されてこなかったように思う。ICT活用も視野に入れて連合体同士のネットワークをつくり、情報交換や交流、資源の交換の促進を図ることができれば、各連合体の活動はより創造的になるに違いない。創造はさまざまな知恵、情報や資源の関係変換により可能になると考えられるからである。
【正のフィードバックが働く仕組み】
 生涯学習支援システム上の課題として、学習機会等に人々のニーズや社会の要請が即刻反映されるように、ICT等を活用して正のフィードバックが働く仕組みを構築してはどうであろうか。複雑系の科学は、進化や収穫逓増には正のフィードバックが鍵を握っていることを明らかにしている。
【自立への道】
 人々に自立が求められるようになるとすれば、各人が得意分野を生かして協力し合うとともに、何らかのサービスを提供したらその日の糧を得られる程度の報酬が得られるようにし、何らかのサービスを受けたらわずかでも対価を出す、という仕組みが必要になろう。そのために、地域では受益者負担とボランティア活動の有償化に取り組む必要がある。
 添付資料:図2 新しい時代に向けての生涯学習政策の課題
 
 
 
  参考文献
・浅井経子「新しい時代の生涯学習政策の方向と課題」日本生涯教育学会年報29号、平成20年11月。
・浅井経子「自立して『生きる』道を開く学習支援システムの構築」『マナビィ』平成20年2月号。
 
 
 
 
  



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