登録/更新年月日:2006(平成18)年1月27日 |
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成人期の範囲やその特徴を明示することは容易ではない。文化や社会、時代あるいは論者によって、「成人」の指し示す範囲や含意が大きく異なるからである。ここでは現代の日本社会に即して、中年期や壮年期とも表現される30歳台から60歳台にわたる年齢層を成人期としてとらえるが、これとて意見の一致をみるものではない。 このような幅広い年齢層からなる成人期の特質を表すことばを求めるならば、多様性という単語があてはまるであろう。 人間の一生をいくつかの時期に分けてそれぞれに固有の特徴を見いだそうとする試みはこれまで数多くなされてきた。たとえばハヴィガーストは、生物学的、社会・文化的、心理的な基準から人生の各時期に達成されるべき発達課題を提示した。そのうち、ここで成人期に含めて考える中年期の発達課題として彼が示すのは以下のようなものである。 1. 家庭から社会への子どもの移行に助力する 2. 余暇の充実 3. 配偶者との人間的結びつき 4. 成人としての社会的・市民的責任の達成 5. 経済生活水準の確立と維持 6. 中年期への生理的変化への適応 7. 高齢者である両親への適応 これらの課題は、確かに成人の生活において一般的にみられるような課題を含むものであり、成人の学習に示唆を与えうるものとしてその意義を認めことができる。事実、かつて日本でも、ハヴィガーストの発達課題が各時期の「学習課題」に関連づけて論じられたことがあった。たしかに、肉体の衰えといった課題は多くの成人に共通する課題といえよう。 しかし、改めて彼の提示した発達課題をみれば、生物学的発達にもとづく課題を別とすれば、いずれもあらゆる成人に普遍的にみられる課題とはいえない。また、生物学的発達についても、少年期や青年期、高齢期と比べ、成人期における変化・特徴のうち明確に指摘できるものはそう多くない。成人への社会文化的な要請については、それが社会・文化によって異なるのは当然だが、ある社会・文化のなかでも個々の成人がとりうる選択の幅は今日ではきわめて広くなっている。成人期の多様性は、こうした発達課題の枠を超えるものなのである。またこれとは別に、成人の発達に関しては、モラトリアムの時期が長期化し、青年期で達成されるべき発達課題を成人期に達成しなければならない人々の増加や、男性と女性の相違についても問われるべき問題であろう。 このように、成人期の多様性は、その固有の特徴の提示やそれにもとづく学習課題の設定を困難なものとしている。しかし、この成人期に起こるさまざまなライフイベントの折々に成人の学習活動が展開されていることは疑いなく、含まれる年齢層の広さは、潜在的に支援を必要とする学習者としての成人期の人々が量的にもきわめて大きな存在であることを示している。それだけに、多様な成人期の学習者をどのように支援していくかは重要な課題となるのである。 br> |
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参考文献 ・R. J. ハヴィガースト『人間の発達課題と教育』<Havighurst, R. J., Human Development and Education. New York, McKay, 1953.> 荘司雅子訳, 牧書店, 1958. |
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