登録/更新年月日:2011(平成23)年1月1日 |
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このように神戸市と伊丹市では、小学校の学校図書館を利用した読書教育の取り組みに大きな違いがあることがわかる。伊丹市の場合、前教育長の提言によって、全市的に小・中学校での言語教育に重点が置かれ、、それが学校図書館における読書教育の充実化につながっている。一方、神戸市では、伊丹市ほど全市レヴェルでの読書教育の積極的な取り組みは行われていない。こうした自治体間での取り組みの違いが、今後どのような帰結として子どもたちに現われてくるか、しばらく時間を置いて再検証していく必要があろう。 その上で、今後の研究課題として次の5点を挙げておきたい。 1)司書教諭の役割を明確にしていく必要がある。神戸市では国語科を専門とする教諭が、伊丹市では読書指導員が、読書教育の前面に出ており、司書教諭が前面に出ていない。これは、現行の学校図書館法では、司書教諭が教諭の充て職であることによる。そのため、学校図書館の業務に十分な時間を割くことができない状況下にある。 2)双方のケースとも、市民参加といえども、図書館ボランティアは、子どもを小学校に通わせている母親もしくはそのOGの参加にとどまっている。今後、図書館ボランティアの担い手を、ジェンダーバランスと世代間交流の観点から、女性に偏している状況を是正し、より幅の広い地域の社会関係資本(social capital)の蓄積と投入が期待されよう。 3)図書館ボランティアの力量形成の場の確保が期待される。これはとりわけ、直接子どもに対して読み聞かせやお話し会に関わるボランティアが、自らの力量を向上させるために行うべきものであるが、それを組織的に提供する必要があろう。神戸市立A小学校の事例で紹介された「こうべ子ども文庫連絡会」の学習会や研究会に相当する活動を、各学校で取り入れてみてはいかがであろうか。 4)双方のケースとも、学社連携の視点が十分に生かされていない。現状では、公立小学校の図書館と公立図書館の連携は、市全体の取り組みではなく、個々の学校もしくは教員と公立図書館との関係にとどまっている。小・中学校と公立図書館間あるいは学校図書館間での蔵書データのつながりも構築されていない。今後、市内全域で、双方を環流する書籍の物流システムや蔵書情報の共有化が期待されよう。今回、2つの小学校の蔵書分類が、日本十進分類法に基づいていないことも判明した。生涯学習の観点から、児童が将来、公立図書館の利用者になっていくことを見越した考え方が、必要となってくるのではないだろうか。 5)今回のフィールドワークは、兵庫県内の2つの小学校にとどまったが、今後、小学校の学校図書館を利用した読書教育が、中学校や高等学校とどのように連接されていくかが課題である。その際に、情報教育と連動させた「メディアリテラシー」や「読解力の育成」を意識した実践の蓄積が期待されるところである。前者は、情報化社会に生きる子どもたちにとって必須のコンピテンシーであり、後者は、国語科教育との連携の中で、読書教育のどの実践が子どもたちの読解力の育成につながっているのかを実証的に明らかにする研究を必要としている。 br> |
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参考文献 ・赤尾勝己「学校図書館教育の課題」学図教ブックレットNo.5『学校教育と学校図書館』日本学校図書館教育協議会、2009年。 秋田喜代美、黒木秀子編『本を通して絆をつむぐ』北大路書房、2006年。 ・有元秀文『「国際的な読解力」を育てる新しい読書教育の方法』少年写真新聞社、2009年。 ・坂田仰、河内祥子、黒川雅子編著『学校図書館の光と影』八千代出版、2007年。 ・根本彰監修『インターネット時代の学校図書館』東京電機大学出版局、2003年。 ・脇明子『読む力は生きる力』岩波書店、2005年。 |
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