生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2006(平成18)年1月27日
 
 

メンタリング運動 (めんたりんぐうんどう)

キーワード : メンタリング、メンター、メンタリング・プログラム、生涯発達支援
渡辺かよ子(わたなべかよこ)
1.メンタリングの定義と概要
  
 
 
 
   メンタリング(mentoring)とは、成熟した年長者であるメンター(mentor)と、若年のメンティ(mentee、ないしはプロテジェprotege)とが、基本的に一対一で、継続的(最短で概ね1年)定期的に(概ね月3〜4回)交流し、適切な役割モデルの提示と信頼関係の構築を通じて、メンティの発達支援を目指す関係性を指す。
 メンターの語源は、ギリシャ神話の英雄オデッセウスがトロイ遠征に際して子息の後事を託した親友のメントル(Mentor)にある。メンター(mentor)は今日、普通名詞として「賢明な人」、「信頼のおける助言者」、「よき師」を意味するようになり、動詞としても用いられている。
 メンタリングは大別して、日常的なインフォーマルなメンタリングと、人為的プログラムを介してなされるフォーマルなメンタリングがあり、メンタリング・プログラムは後者に属するものである。
 メンタリング運動とはメンタリング・プログラムへの参加関与を通じた市民運動である。
 メンタリング・プログラムは、
(1)参加者の募集
(2)スクリーニング(不適切なメンターの排除)
(3)マッチング(組み合わせ)
(4)両者へのガイダンス(メンターへの傾聴スキル訓練や発達心理学の知識等)
(5)モニタリング(カウンセラー等の専門家による支援と問題への対応)
(6)プログラムの評価
から構成される。メンタリング・プログラムは、地域コミュニティを基盤とするものと、学校等特定の場所を基盤とするものに分かれ、前者では柔軟なスケジュールで両者の自宅を含めた地域の様々な場所でメンタリングが行われ、後者ではモニタリングの容易さという特徴を生かし、放課後等、定期的に学年暦に応じてメンタリングがなされている。また近年、従来の様式では地理的時間的制約によって参加できなかった多忙な専門家がITの活用によってメンタリングを行うテレメンタリングが、国境を越えて展開されている。ピア・メンタリングやグループ・メンタリング等の試みもなされている。
 メンタリング・プログラムは、従来の青少年施策と比べ、(1)コストの安さ、(2)幅広い年齢層の人材の活用、(3)多種の機能との融合が容易であること、等の政策的メリットに加え、当事者に深い感謝と喜びを与えていることが知られている。メンタリング運動は,米国で20世紀初めに創設されたBBBS運動を中心に,学校・地域・企業が連携した,ごく普通の市民ボランティアによる青少年発達支援システムとして1980年代以降、各地で急速に拡大した。メンタリング・プログラムは企業の人材開発や社会貢献、医療や教員などの専門職養成、青少年問題への対応として脚光を浴び、LD児教育から英才教育、総合的学習、不登校や若年失業対策にまで、個々の学習者の必要に対応した発達支援方策として活用されている。具体的なメンターとメンティの活動内容は各プログラムの掲げる目標や地域の事情によって異なるが,学校や自宅で一緒に宿題,スポーツ,ゲーム,料理,散歩をしたり,社会教育施設等に出かけたり極めて多彩である。米国で開始されたメンタリング運動は,イギリス,カナダ,オーストラリア,南アフリカ等,各国に影響を及ぼし,それぞれの国や地域の実情に応じたプログラムの工夫が重ねられている。
 
 
 
  参考文献
・渡辺かよ子「円環的生涯発達支援としてのメンタリング・プログラムに関する考察」『教育学研究』69-2、2002年
・渡辺かよ子「青少年向けメンタリング・プログラムの構造的特徴と類型」『青少年教育フォーラム』(国立オリンピック記念青少年総合センター研究紀要) 3、2003年
 
 
 
 
  



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